なんか、カメ、いいなぁ・・・と思いました。
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「趣味」を探すのはもう止めようか……。
かれこれ一年にわたって「趣味」を探してきたが、一向に見つかる気配がない。というより、むしろ探せば探すほど無趣味な人間になっていくような気がする。もしかすると「趣味を探す」ということ自体が間違っているのかもしれない。趣味を「味わい」だとするなら、探している限り、探すこと自体を味わってしまう。いっそ何もせずに「趣味」というわけにはいかないものだろうか。
などとゴロ寝しながら考えて、ふと思い出したのが『カメのきた道』・・・だった。同書によれば、今から二億三〇〇〇万年前、地球の陸上動物は生き延びるために三つの道を選んだのだという。ひとつは恐竜のように体を巨大化させ、他を圧倒する道。二つ目は私たち哺乳類のように小型化して、絶え間なくエネルギーを摂取して活発に動き回る道。そして、三つ目がカメの道である。甲羅を背負ってじっとする道。動かなければエネルギーも必要ないので、ことさらにエサを求めることもない。・・・拍子抜けするような合理的処世でカメは二億三〇〇〇万年も生きてきたというのである。・・・
カメを見てみたい。
私は衝動にかられた。彼らの悠長な時間の味わい方に何か「趣味」のヒントが隠されているように思えたのである。
静岡県・河津町にある「伊豆アンディランド」はカメ専門の動物園である。・・・
・・・
・・・同ランドの目玉である世界最大のガラパゴスゾウガメ(推定年齢一〇〇歳)の前に立った。
さすがにでかい。
・・・その動きをよく観察してみると、本人も自らの体重に圧倒されているようだった。ゆっくりと歩き始めようとするが、右前肢を上げ、次に左前肢を上げた時点でどうやら疲れてしまうらしく、ズッドーンという轟音とともに地面に伏せたりする。伏せたらそのついでに一休みの様子。しばらくすると「あれっ」と何かを思い出したように起き上がり、また歩き始めようとする。
何をしたいのだろうか?
・・・
「カメは忘れっぽいんです。ニワトリは三歩歩くと忘れるといわれますが、カメは歩かなくても忘れちゃうんです」
アンディランド支配人の千田英詞さんがカメの気持ちを解説してくれた。・・・
「例えば、食べている途中でエサを取り上げても、追いかけずに平然としています。エサがそこにあったことも忘れているし、今食べていたことも覚えていません。エサを食べようとして動くのではなく、あったら食べる、なければ食べない、という感じなんです」
・・・
カメの行動は生き延びるために必要な「食べる、交尾する、寝る」という三つだけで構成されているという。あえて付け加えるなら「休みながらの日光浴」らしい。ミズガメたちは日中、岩場で甲羅干しをする。その際も、甲羅干しをするカメの上に平然と別のカメが乗って甲羅干し。こうなると下になったカメは日陰になってしまうのではないかと心配になるが、やはりカメはそれぞれ知らん顔。そしてどんどん重なっていく。
―下のカメは上になろうとしないんですか?
「わざわざそこまでして、という感じです。そもそも甲羅干しは遅い者勝ちですから」
ゆっくり来たほうが日光を獲得できる。これこそカメの道なのだろうか。・・・