プロとは

今までにない職業をつくる

こういう人が本当のプロでは、というお話、そのとおりだなーと思いました。

 

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 自分の価値観さえ確立していれば、八百屋の店員だって、お客さんにいかに喜ばれるか、この人にはこうして、と工夫して、よりたくさん売って、より喜ばれて、「やっぱりあの人の言うとおりだ」とか、「あの店員さんと話すだけでも心がなごむ」とか、そういう人間になることをどんどん工夫していくのが、本来の人としての生き方ではないでしょうか。

 その人とちょっと言葉を交わすだけでも「なぜか元気になる」と人々に言われるような人というのは、プロだと思います。何かの店の店員なのに、並みの精神科のカウンセラーよりよほど人を元気にするということも当然あるわけですから。ですからプロとして、他にちょっと真似できないような、独自の魅力を持った人がたくさん増えることは嬉しいことです。武術にかぎらず、八百屋なら八百屋で、教師なら教師で、それぞれが探求していった結果、「この人は話が通るな」「こんなところに人生の達人が隠れていたのか」という出会いが増えれば、生きている喜びが増えます。

 私も一度、井の頭線池ノ上駅から駒場の東大近くのレストランまで乗ったときのタクシーの運転手が、話しかけるとユーモアがあって、それでいて勝手にしゃべりすぎず、客の状況をさりげなく、それでいて非常に的確に把握していて本当に感心したので、タクシー代が七一〇円だったところを一〇〇〇円置いて、「いや今日はいい勉強になりました、今までタクシーはずいぶん乗ったけれど、運転手さんのような人は初めてですよ」と言って降りたことがあります。こういう人が、本当にプロですね。僅かな間の会話でも、センスのよさが光っているような、ちょっとした言葉のやりとりで際立つような人は滅多にいませんが、それだけに出会うと後々まで深く心に残ります。

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 どんな道にも「プロ」という名に値する人がおり、またそういう人は、どこか精神が初々しいアマチュアであったりしますから、大変魅力的です。

 ですからたんに「優勝したい」とか「メダルを獲りたい」ということではなく、「自分の進むべき世界だ」と思った道に進んで、結果として優勝するとか、成功するということが、スポーツであっても、他の道であっても、人が人として生きる本来あるべき姿だと思います。