瞑想の効果

パンデミックの文明論 (文春新書)

 こんなお話もありました。

 

P169

中野 私、これを言うとトンデモと思われるんじゃないかと、人前ではほとんどしゃべったことないんですけど、とっても興味深い論文があるんですよ。ある研究者が瞑想の習慣を持つ人とそうでない人の脳を比べると、瞑想をする人は脳の灰白質が増えていたというんです。

 

ヤマザキ ほんとう?

 

中野 もちろん検証は必要ですけれども、少なくとも、瞑想すると脳が育つということを示唆するデータです。

 ・・・

 メディテーションを行うと活性化する場所が脳にあるんですけど、その代表的な部位が右の「角回」なんです。角回は右と左にあって、右側は何をしているかというと、自分と環境の境目をモニターしているんです。ここからこっちは私だけど、ここからあっちは外界だという、国境警備隊みたいな仕事ですね。で、メディテーションすると、この部位の働きがガクンと落ちることがあるんです。

 

ヤマザキ 自分と外界との境目が霞む感じですか。

 

中野 境目がなくなる感じがするというんです。ですから、いつも瞑想をし慣れている人に瞑想中の内観がどんなものかをたずねると、「自分が宇宙に溶けている感じがする」とか「宇宙と一体になっている」という言い方をするんですよ。

 

ヤマザキ それって曼荼羅ですね。ブッダが悟った境地のビジュアル化。

 

中野 ウイルスなども含めた環境と自分とは不可分だという感覚―それに近いのかなという気がしますね。これこそが東洋の思想であって、いつからか科学もそういうことを研究の対象にするようになってきたなって。

 ・・・

 一八世紀ドイツの美学者バウムガルテンが、上位認識能力(悟性的認識)と下位認識能力(感性的認識)という分け方をしています。それによると、感覚は間違うことがあるけれども、理性は間違わない。だから理性などの働きを上位とするんだという考え方ですね。だけど二一世紀の現在では、上位認識能力だってさまざまなバイアスによって間違うことが分かっているんです。むしろ下位とみなされてきた勘とか直感に従ったほうが、最終的には正しい答えにたどり着くことがある―そういうのを、みんなが意識する時代になったんじゃないでしょうか。

 

ヤマザキ ブルース・リーが言うところの、「考えるな、感じろ」ってやつですね。

 

中野 コロナもそう。理性的に対処しているつもりでも感染が拡大してしまった国と、ゆるゆる穴だらけなのに何となく制御に成功しちゃったところがある、みたいな。