美しい写真とともに楽しめる、タイトルの通り、沖縄の風を感じられるような一冊でした。
P15
『不便が残してくれたもの』(池田卓著、ボーダーインク刊)は、離島の中でも「最後の秘境」と呼ばれる西表島・船浮で生まれ育ち、今もここで暮らすシンガーソングライター池田卓さんのエッセイ集です。
卵ひとつ届くまでに、売店のおばちゃん、バスと船の運転手さん、島の人の手、たくさんの人の協力が必要なこと。細い道だからこそ、みんなが譲り合うこと。物は壊れるのではなく、調子が悪いだけで修理して大切に使うこと、イノシシの胃や腸から何を食べているのかを教えてもらうこと。自然と共に生きる偉大な父から覚えることが多くて、深くて、「島に帰ってきてよかった」ととことん思うこと。「さぼることも大切よ」という母の言葉で楽になったこと。「全ては与えられている」ことを、大いなる大自然の息吹と共に教えられます。
P54
満潮で海がキラキラと輝いていた朝、ビーチへ行くと、ひとりのおじいが船を出そうとしていました。「何が釣れるの?」と聞くと、「いやあ、今は釣れないねー。9月半ばになると、ミジュン(イワシの仲間)とかグルクマー(サバの仲間)とかが来るんだけどねえ」「え、じゃあ今は釣れないの?」「うん、釣れない」「え?じゃあ、なんで船出すの?」「遊んでいるだけ。暇だから」!なんとも粋な答えにびっくりしました。結果も目標もなくていい。遊んでいるだけ。ついつい、私たちは、目標や予定、成果を気にしながら、日々を送りがちですが、「遊んでいるだけ」でいいのだと、朝の海で教えられました。・・・
P58
「土もみ3年、ろくろ6年」と言われるほど奥が深い、焼き物の世界。北窯の土作りは、個性の異なる6種類の土をブレンドして作ります。・・・北窯の親方のひとり、松田共司さんは「ここの土は縦に伸びる。あそこの土は横に伸びる。土によって個性が違うんです。中には強みがない土もある。でも、全てを合わせた時、その土を入れることで、全体が良い土になるという土もあります。人間社会と同じですよね。頭がいい人、重いものを持てる人、空気を和ませてくれる人。いろんな人がいて共同体がある」と教えてくれました。・・・
P60
誹(スシ)らわも(ン)構(カム)な
誉(フミ)らわん構(カム)な
我肝(ワチム)思み(ウミ)詰(チ)みり
朝も(アサン)夕さも(ユサン)
意訳
誰かに悪く言われたり、逆に褒められたりしても、どちらも気にしなくていいのです。大切なことは、自分の心を、朝も夕も磨くことです。私は私以上でも、以下でもない。
P170
沖縄には見えないものが見える、とか、見えないけれど「わかる」という人がいます。そういった霊的な力を「セジ」と呼び、霊的な力を持っている人を「サーダカー」と呼びます。少し前まで、沖縄では4軒に1軒はサーダカーがいると言われていました。・・・
「セジ」は一見、生まれ持った特別な能力のように思えますが、私のお師匠様は、「セジは誰もが元々持っていて、育てることができる」と言います。ではどうやって「セジ」(第六感、第七感、第八感)を育てられるのか?それは「五感を磨く」ことだと教えられました。聞き慣れた言葉ですが、五感磨きが、これまた深い世界です。
P199
黄金言葉
見る事(くとぅ)ぬあてぃん
聞(ち)く事(くとぅ)ぬあてぃん
善(ゆ)たさあるむぬや
我身(わみ)ぬ鏡(かがみ)
(詠み人知らず)
意訳
「見るもの聞くもの全てが、自分の鏡であり、学びであり、糧となります」
・・・
・・・私の神人のお師匠様もよくおっしゃいます。いつもどんな時も、「答えはすべて目の前にある」。
P272
西表島で紅露工房を営む石垣昭子さんは、紅露やフクギなどを使った八重山地方の染色技術を、現代に蘇らせた染織家です。染料は島に自生する植物を使い、糸の素材は糸芭蕉も苧麻も絹も全て自家栽培。昭子さんの仕事の90%は糸作りです。芭蕉が育つまでに3年以上、繊維をはいで、糸を作って染めて、機織りは最後のご褒美のような静かな時間。昭子さんは手仕事の中にこそ、「植物と人間の、精神的なコミュニケーションがある」と言います。「赤ちゃんのような肌触り、切り口から汁が滴る感覚、輪層の模様の美しさにうっとりする。それが楽しいのよ」。そして、歳月をかける布作りの仕上げは、布を海に浸す「海ざらし」です。島の海と太陽、風がたっぷりと織り込まれた、しなやかな風合いの布が生まれます。「私たちの仕事の90%が、目に見えない仕事。見えない仕事がいいものを作る」