人の波に乗らない

人の波に乗らない 笑ってる場合かヒゲ

 こちらの3冊目も、藤村さんの視点っていいなと思いました。

 

P19

 3人子供がいるんですけど、真ん中の次女の話です。上にお姉ちゃん、下に弟。上と下は仲がいいんだけど、次女は上とも下ともなんだかうまくいかない。些細なことなんだろうけど、上も下も真ん中によく腹を立てている。そんな様子を見てる私自身も「そりゃ真ん中が悪いわ」と思ってしまう。「でもさぁー」って次女が反発するたびに「だからおまえは!」って、怒ってしまう。

 上も下も運動神経はいいんだけど、次女はダメ。公園で輪になってサッカーボールを蹴ってて「おーい!いくぞー」って次女にボールを蹴ると、次女は空振りしてすっ転ぶ始末。「アハハハ!なにやってんだよー」ってみんなで笑ってると「イヤーもう!」なんて言いながら次女も笑ってる。「笑ってる場合じゃないだろ!落ち着いてボールを見ろ!」ってまた怒ってしまう。

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 次女はやがて関西の大学に進み、でも1年で大学を辞めました。やっぱり、うまくいかなかったんですね。そして引きこもりになりました。今も関西でそのまま引きこもってます。

 上も下も子供たちは今みんな関西に住んでいます。出張で関西に行くたびに次女と会います。上と下には半年に一度ぐらいしか会わないんだけど、次女とは毎月のように会っています。「心配だから」ではありません。彼女と話をするのが面白いからです。相変わらず「だからおまえは!」って怒っちゃうんだけど、昔より少しは彼女のことがわかってきました。彼女の人生は常に高い木の上を歩いているような感覚で、なかなか前に進めないのかな、と。

 次女は別れ際に必ず「今日はありがとね」って言います。そこまではいいんだけど、その後に「お酒飲みすぎちゃダメだよ」「気をつけて帰ってよ」なんてえらそうに言うもんだから「おまえに言われたくないわ!」と捨てゼリフを吐いて別れます。

 先月は次女の誕生日でした。「誕生日おめでとう。今年は忘れてなかったぞ」ってメールを送りました。・・・

 メールの返信には「おかげさまで25になりました。すんませんがまだまだお世話になります」と書いてありました。「お世話するよ!親だから当たり前だろう!」って、またちょっと怒りそうになってしまいました。

 

P76

 3月の末、僕は嬉野雅道さんと大阪にいました。仕事の打ち合わせを終えて、次は東京へと向かいました。二人でやってるユーチューブ・チャンネル「水曜どうでそうTV」の撮影のためです。移動は別々でした。

 翌日、撮影スタジオに行くとスタッフから「嬉野さんは来ないそうです」と言われました。「ん?どういうこと?」と聞けば、「大阪からそのまま札幌へ帰ってしまった」と。つまりは「収録をすっぽかした」というのです。「えっ?ちょっと待って!それはどういうこと?」と聞けば、嬉野さんは「新型コロナウィルスの影響で近々東京が封鎖されるかもしれなと聞いた」と、「そんなところにいるのは怖い」ということでそのまま札幌に帰ったのだと。それが僕のコロナ禍の始まりでした。

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 それから嬉野さんは自宅から一切出ないという生活に入りました。「未知のウイルスは怖いから外には出ない」というシンプルな感覚で「ステイホーム」を誰よりもかたくなに実践していたということです。

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 ずっと後になって嬉野さんは3月末のときの気持ちをこう言いました。「東京に行くというのが、どうにも虫の居所が悪かった」と。つまりは「気が乗らなかったから仕事をすっぽかした」ということです。多くの人は「そんなことが理由になるか」と思うでしょう。「そんな勝手なことをしたらいろんな人に迷惑がかかる」と。

 でも僕はそれはとても大事な感覚だと思うのです。気が乗らないのに仕事をこなすことこそが結果的に迷惑だと思うのです。しょうがないからやっている、今はそういう流れだからやっている、ということがあまりにも多くないでしょうか。

 昔から嬉野さんは「理由はよくわからないけどその企画はやらない方がいいと思う」とか「悩んでいるならやめた方がいい」とか、そんな言葉をよくかけてくれます。その言葉に何度助けられたことか。

 

P125

 僕がクレイジーキャッツで一番好きなのが「学生節」という歌です。歌詞を要約するとこんな感じです。「お父さん、ひとこと文句を言う前に、まずはあんたの息子を信じなさい。世の中これからどうなるかわからない。あんたの知らない未来がある。お父さんが立ち入れない息子の世界がある」。若者たちに文句を言う前に、彼らをもっと信じてあげましょうよ。

 

P169

 演劇プロジェクト「オーパーツ」の二年半ぶりの舞台「D-river」の東京公演がいよいよスタートしました。

 今回の出演者は、作・演出を務める鈴井貴之さんをはじめ、渡辺いっけさん、温水洋一さん、田中要次さんと、私より年長のベテラン俳優の方々がその半数を占めるという、加齢なる布陣でございます。

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 鈴井さんは公演を前に「いい年をしたおっさんたちが本気でバカバカしいことをやっている姿をお客さんに見せたい」と語っていました。今回で二度目の出演となる渡辺いっけさんは「オーパーツの芝居は、自分にとっては青臭い、学園祭のようなものだと思っています」と語りました。おふたりの言葉は、決して「悪ふざけをして楽しみましょう」と言っているのではなく、むしろ「体に鞭打って全力を出しきりましょう」という決意の表明でした。

「仕事」というのは、ある部分は他人に任せ、たまには手を抜くことも必要です。それが仕事を長く続けるコツだったりもします。でも「遊び」は、みんなが全力を出さなければ成立しません。鬼ごっこは鬼が血相を変えて追い、みんなが必死になって逃げ回るから面白いんです。鬼が手を抜いて追いかけるのをやめてしまったら、その時点で「遊び」として成立しなくなってしまいます。今回のお芝居は、ベテランの役者さんたちに「仕事」ではなく、鈴井さんが「遊び場」を用意してくれたように思います。

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 本番5分前、他の役者さんたちも舞台袖にやって来ます。「よろしくお願いします」とお互いに頭を下げ、それぞれが緊張状態の中に入っていく。拳を握りしめている人もいれば、壁に向かってボソボソとセリフを確認している人もいる。ここから先はベテランも新人も関係なく、誰も手を抜くことができない、誰に頼ることもできない、ただ自分の役割りを全うするしかない舞台が待っています。そこに立ち向かおうとする役者さんたちを見て思うんです。「サラリーマンもこんなふうに仕事ができたらいいのにな」と。

「遊び」のように全力で「仕事」をする。もちろん毎日そんなことをやってたら体が持ちません。でもね、それができたら必ず成果が出ることを、鈴井さんも私も「水曜どうでしょう」で体験しました。だから今回のお芝居も本気で遊んでいるんです。