三谷幸喜さんと主治医の先生との対談です。
こんな内容です、ということが、あとがきにまとめられていました。
一番最後の「ガニー」というのは、がんという言葉の響きが重いから、せめてガニーはどうだろう?という話でした。
こちらは頴川先生。
P181
三谷さんから「先生と前立腺がんの本をつくりたい」とお声がけいただいたのは、三谷さんが手術を受けられてから5年経ってからでしょうか。定期検診のときに、いつものあの飄々とした感じで「前立腺がんは怖くないし、もっとこう……、明るい感じというか、〝がんと闘う、生還する〟というイメージを変えたいんです」とおっしゃいました。前立腺がんの治療に携わって30年以上、この言葉にはまったく同感。即、お引き受けしました。
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あらためて原稿として読んでみると、手前味噌ですが……いやぁ、面白い。三谷さんのお人柄、天性のキャラクターによって、「がん」がテーマながら、ついついクスリと笑ってしまう箇所がたくさん。ご自身の体験を俯瞰して、タテにヨコにナナメに、あちこちから観察、鋭く分析した言葉もリアルでありながら〝楽しませたい〟というエンターテインメントに満ちています。
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「前立腺がん=死」では必ずしもないですし、男性機能がかかわっているがゆえの妙な偏見も払拭したい。前立腺がんになった人も、気になる人も、この本を通して、知識や数字だけでない情報を得て、安心してほしい。それが私(と三谷さん)の願いです。
こちらは三谷さん。
P187
半年に一度の定期検診。おかげさまで経過は良好です。既に手術から7年と半年が過ぎましたが、とりあえず異常なし。・・・少々おしっこのキレは悪くはなりましたが、それは加齢というものみたい。それはそれで悔しいですが。
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ただし、不安がないと言えば嘘になります。検診の前の日は未だになかなか寝付けません。今まで元気だったとしても、もし明日、数値に異変があったら、その瞬間からまた闘病生活が始まるのです。それはまるで、せっかく読んでいた本をいきなり誰かに奪われ、今日からはこれを読みなさいと強引に別の小説を、それもあまり読みたくないタイプの小説を渡されるようなもの。なんとも不条理な話ではないですか。
そして病気にまつわる、こういった能天気な文章を書いたりすると、そんな時に限って次の検診でよくない結果が出てしまうんじゃないかと余計不安になる。(ああ、調子に乗ってあんなこと書かなければ良かった)と激しく後悔する己の姿を想像してしまう、妄想癖の強い自分がいます。
やはり検診は何度経験しても慣れないものです。
でも半年に一度頴川先生とお会いして、検診の結果を確かめつつ、近況報告のような時間を過ごすことが、僕にとってとても大事なイベントになっているのは確か。・・・
・・・これからも定期検診は続けていきたいし、それは早期発見と同じくらい大事なことなんだとしみじみ思うわけです。つまり病気と一生付き合っていくというのは、こういうことなんです。
びっくりしたことがあります。『ボクたま』で僕の病気のことを知った知り合いから、「実は自分も同じ経験をしたことがあるんだ」と連絡を受けました。それも数人から。前立腺がんというのは、思っていた以上にポピュラーなものみたい。やはりイメージ的になかなか人に言いづらい病気なので、皆さん口にしないだけ。確かに「俺、前立腺がんになっちゃってさ、手術したんだよ。傷跡見る?」と言えちゃう人はそうはなかなかいないでしょう。
・・・同じ病気で不安を抱えるとある俳優さんから相談を受けたりもしました。僕もそうでしたが、自分の掛かった病気のことを詳しく知らないといたずらに不安は増すもの。かと言って、専門的になり過ぎず、エンターテインメントに徹した分かりやすい医学書というものはなかなかない。当然ですがその人には、まずは『ボクたま』を読むようにと勧めておきました。
道を歩いていて、知らない方から声をかけられたこともあります。年配の男性で、自分は前立腺がんと診断され、手術を前に不安な毎日を過ごしていたが、『ボクたま』を読んで元気が出ました、と告白されました。・・・この本を出して良かったと思った瞬間でした。
そうなんです。僕は舞台にせよドラマにせよ映画にせよ、自分の造ったもので誰かを啓蒙しようとか、人の人生を左右しようとか、そんな風に思ったことがありません。いつもただ笑ってほしい、楽しんでほしいと思っているだけ。何かを作って、ここまで人に感謝されたのは『ボクたま』が初めてかもしれません。
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ちなみに本の最後で僕が提案した「ガニー」ですが、まだまだ定着はしていません。ぜひ、皆さん、「ガニー推進運動」にご協力ください。