つつまし酒

つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン

 日常の中の小さな幸せ。楽しい気分になりました。

 こちら↓で連載が続いてます。

酒場ライター・パリッコの「つつまし酒」|光文社新書

 

P270

 2000年代後半からお酒に関する文章をなんとなく書くようになり、徐々にお仕事をいただけるようになって、それまで勤めていた会社を辞め、「酒一本のフリーライター」というあまりにも無謀な肩書で独立したのが2019年の3月1日。あれから早いもので、もう2年が経つんですね。

 会社を辞めた翌日の、家から一歩外に出たとたん、まるで背中から羽でも生えたんじゃないか?と思うくらいにふわふわと体が軽かった感覚、忘れようにも忘れられません。その日も今日みたいに天気のいい日だったなぁ。寒い寒い冬がようやく終わり、あちこちで色とりどりの花が咲きはじめ、40歳というちょうどいい節目に、なんだか新しい人生が始まったようなあの気持ち。毎年この季節がやってくると思い出すんだろうな。そんな気がしています。

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 その後、世の中がみなさんご存知のような状況になり、一気に仕事がなくなってしまうんじゃないかと不安になったりもしましたが、意外とそんなことはなく、急速に需要の増えた家飲みや、コロナに対抗すべく新しい策を打ち出す酒場の取材など、あの手この手の仕事の依頼を多くの編集者さんからいただき、あらためて、人々の小さな希望になりうる「酒の力」って、確かにあるよなぁという想いを強くしています。

 今後の人生に対する不安はあるし、それは一生なくなりそうにない。とりあえずここまではやってこられたけれど、では次の1年もやっていけそう?と聞かれたら、答えようもありません。けれどもこの2年、ストレスというものとは本っっっ当に無縁の生活を送れており、それはとてもありがたいことだなと。

 ただ、まずいんですよ。この自由すぎる生活。だって、いつなんどき酒を飲もうと、注意してくれる上司も部下も同僚もいないんですもん。今日みたいに天気がいいと、それだけで昼間っからビールが飲みたくなる。・・・

 さらにおそろしいのはこれからやってくる「夏」。夏ってさ、もう、それだけで「酒を飲む理由」になりません?「飲んじゃおっと!夏だし」これ、ごく自然なセリフですよ。

 まぁ、それが日常になってしまうと人間的に本気でまずいことは自覚しているので、毎日なるべく夕方まではお酒を飲まないようにしてるんですが、や~自信ないな~、今年の夏もちゃんとがまんしつつ乗り越えられるのかどうか……。

 そこにとどめをさしにくるのが、僕の「酒場ライター」という生業ですよね。・・・一般的に考えて、「急いで酒を飲まなきゃいけない」って状況、人生にあんまりなくないですか?

 つつまし酒のこの1年をふり返ってみたって、明日が締め切りだから急いで「コンビニ弁当をまげわっぱに詰め替えて飲まなきゃ!」「いろんなものを浅漬けにして飲まなきゃ!」「ドムドムバーガーに行って飲まなきゃ!」「ベランダで野宿しつつ飲まなきゃ!」「物産館に行って飲まなきゃ!」「冷凍餃子を食べ比べながら飲まなきゃ!」「どんぐりを拾ってきて飲まなきゃ!」「定食屋で飲まなきゃ!」「おせち作って飲まなきゃ!」「たこ焼きとお好み焼きの形を入れかえて飲まなきゃ!」「千葉まで『トンかつ弁当』を買いに行って港で飲まなきゃ!」って、どんだけ異常な生活なんだっていう。そして、そんなタスクが他の媒体含め日々やってくるわけですから、もう。

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 ただ、今回けっきょく何が言いたかったかというと、「あぁ、酒場ライターは楽しいなぁ!」につきるんですけどね。