マンハッタンに陽はまた昇る

マンハッタンに陽はまた昇る 60歳から始まる青春グラフィティ

 ジャズピアニストとしての、大江千里さんのニューヨークでの日々、3冊目。

 勢いを感じたり、励まされる感じがしたり・・・何か追い風を感じるような読み心地でした。

 こちらは、オークパーク・リバーオレスト高校の日本語の先生からのリクエストで、高校生に講義をしたときのエピソードです。

 

P15

「先生、ジャズとポップの違いってなんですか?」

「そうだな、フレーズ、音階、コード、リズム全てが違うよ。たとえばこんなふうに」

 短い曲をモチーフに、ポップからジャズにした場合どうなる?説明を入れながら実演してみせる。みんな、耳をそばだてて聞いている。

「結局は自分の心の奥底にある感動のエネルギー、それが音楽の原料なんだよ。たとえば僕はアメリカ人じゃないじゃない?でも今の僕のできる範囲の英語で表現しろと言われれば、ほら」

 

♪I love you,Every Year,Every Month. I love you,Every Week,Every Day. I love you,Every Hour,Every morment. And then I love you,Every Second like this. I love you,I love you,I love you.  I love you,I love you,I love you. ♪

 

 気持ちの赴くまま、自分の英語で即興の歌を作り歌ってみる。ワオ、と声が上がり、笑顔があふれ、拍手が沸き起こる。とたんに「はい、はい」と次々に質問の手が上がり始めた。

「どうしたら夢を叶えられますか?」

 さっきまで、夢、ないなあ?とうそぶいていた男の子、女の子が夢を語ろうとし始めている。

「たとえば君には夢がある。ところが世の中はその君の夢だけを叶えるためにはもちろん働いてはいない。そうしたら、君は夢を叶えるには一体どうしたらいい?一見何でもないような小さな出来事が実は今振り返ると〝夢の入り口〟だったんじゃないかって思えることがいっぱいあるよ。誰かの代役をやったり、時に道化を演じたり」

 興味深そうに聞く彼ら。

「受け入れる。チャンスが起こったら、え?って思ったとしても乗っかって無我夢中全力でやってみる。たとえそれが本来の自分の夢じゃなかったとしても。そうしているとある日。あれ?自分ってもしや夢にかなり近いところに来ているのかな?って思う日が必ず来るんだよ」

「どうやったら曲が書けるのですか?」

「曲を書くときは……iPhoneがなかった時代には、アイデアが浮かぶと日本のbullet train(新幹線)のホームからでも即座に留守番電話に吹き込んだよ。でも不思議とそういうものってあとで聞くとほとんどが使い物にならない。縁があるメロディや歌詞って、メモらなくても録音しなくても自分が『覚えている』ものなんだよ。来る時が来ると自然と出てくるんだ。でもここが大事なのは、そういう無駄に見える普段の小さな努力、一生懸命録音したりすることをやめちゃうと、メロディや歌詞との縁も生まれない。これはどんな職業や人生にも共通していることじゃないのかな。わかるかな?」

「自分の夢は航空会社に勤めることなんだけれどそれって叶うと思いますか?」「ピアノが好きだから先生みたいにプロになれますか?」

 次々にみんなが夢を語り始めたのだ。

「みんなの夢が叶うか?それは誰にもわからない。でも夢って叶うだけが夢じゃないと思うよ。夢だって思っていることはある種の幻想かもしれないし、大事なのは自分が夢に向かって、何か一歩踏み出しているってこと。そのプロセスこそがすでに自分にとって夢なんだって思う」

「先生の具体的な今の夢はなんですか?」と誰かが声をあげる。

 え?虚を突かれた僕は思考回路を通す時間もなく咄嗟に「グラミーを取ることだよ」と返してしまう。しまった、ところが生徒たちの反応は図らずも「ブラボー!」という大歓声と大拍手だった。僕も調子に乗っちゃって「Japanese Grammyじゃないよ、僕が言っているのは。US Grammy」いえーいとみんなが拳を空中で回し、それぞれとハイファイブ

 始まる前はこの1時間の講義を持て余したらどうしようと用意していたアンチョコを使うことも忘れ、夢中で生徒たちと語り合っていた。・・・

 

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