東田直樹さんのエッセイを読みました。
この方の文章を読むと、いろんな連想が浮かびます。
P22
人を励ますということ
今日、見かけた中学生くらいの子どもたちのグループは、にぎやかだった。ふざけ合ったり、じゃれ合ったり、みんな大きな声で笑っていた。
僕は自閉症という障害を抱えていて、普通の人のようには会話が出来ないので、そういった場面に遭遇すると、少し羨ましくなる。僕もやってみたいと素直に思う。でも、それは永久に叶うことのない夢だということを、僕自身が一番よく知っている。こう書くと「そんなことはない」と励ましてくれる人もいるかもしれない。その言葉は優しさだろう。
励まされたら、励まされた人は、たいてい「ありがとう」と応える。僕は、この「ありがとう」には、主にふたつの意味が込められているのではないかと思っている。相手には理解されないと感じ、どうにか早く話を切り上げるためにお礼を言う、これでおしまいの「ありがとう」。もう一つは、相手の気遣いに感謝の気持ちを伝える、思いやりに対する「ありがとう」である。どちらにしても励まされた人の本心としては、励ましてくれた人の言う通りだとは思っていないだろう。と言うより、励まされたからといって、すぐには考えを変えられないのが人間だ。でも、励ます方は、これで全てが解決したかのようにほっとする。自分はいいことをしたと胸をなでおろす。
励ます、励まされるの両方を経験していても、このやりとりのパターンが変わることはあまりない。人間とは自分本位である。つくづく相手の立場に立てないものだと思う。