神さまたちの遊ぶ庭

神さまたちの遊ぶ庭 (光文社文庫)

 北海道の十勝にあるトムラウシという場所へ山村留学した家族の一年間が書かれたエッセイ。地域のみなさんや、著者のお子さんたちが最高でした(^^)

 次男さんのニックネームが色々変わるのも面白かったです。

 

P25 三月某日 息子の作文、「二十歳の自分へ」

 ちょうど二年前の今頃、小学校卒業を前に長男が書いた作文を読んだ記憶がよみがえる。

「二十歳の自分へ。今頃、パティシエになっていますか?」

 料理好きな息子だけれど、パティシエになりたかったとは知らなかった。

 作文は続いていた。

「なっていたら驚きます。今、一ミリもなりたいと思っていないので」

 次男も書いている頃だろう。早く持って帰って見せてほしい。

 

P49 四月某日 給食のかつ丼

 学校の給食がたいそうおいしいらしい。これまで学校で最も苦痛なのが給食の時間だと公言してきた次男「漆黒の翼」でさえも、ここの給食のあまりのおいしさに感激している。調理師学校の先生をしていた人が校内の給食室で毎日つくってくれるらしい。それを温かいうちにみんなで食べる贅沢!

 むすめの報告によると、教頭先生は右利きなのに左手でお箸を使うそうだ。

「そのほうが脳細胞が若返るからだって」

 思わず笑ってしまう。私の頃の学校の先生は、左利きの子供を右利きに矯正しようとさえしたものだ。わざわざ子供の前で左手でお箸を使う訓練をするとは、やるもんだなあ。

 長男は校長先生の隣で食べることが多いそうだ。校長先生はおもしろすぎて困る、という。

「大きくなれよって、校長先生がかつ丼のごはんだけくれた。ごはんだけ」

 それは味のついていないところだったそうだ。

 

P58 五月某日 お城

 四年生学級が、図工の時間に、紙粘土で「夢のお城」をつくった。四人分で四つ、力作が展示してあるのを見る。ディズニーみたいなかわいいお城の隣に、なぜか眼鏡をかけて鼻を指で押さえ、しっぽのついたお城が。むすめ、何を考えている。

 

P65

 長男は、なんというか、あれだ。あれなのだ。親が言うのもなんだが、幼稚園児の頃すでに親の私より頭がよかった。福井の中学に通っていた頃、彼は一切勉強をしなかったけれども点数は取れた。百五十人いた学年で、二年間ずっと順位は一ケタだった。何度か学年一位も取っている。自慢ではない。ほめたこともない。なぜなら、彼が努力をして得た結果ではないことを親の私が一番よく知っているからだ。

 でも、彼の試験の点数しか知らなかった私は、通知表を始めて見たとき頭がクラクラした。何かの間違いだろうと思ったくらいだ。宿題もやらないし、提出物も出さない。この成績をつけてくれただけでも良心的だと思うよ、と本人に無邪気な笑顔で言われたときには開いた口がふさがらなかった。

 いくら長男でも、内申書重視の北海道の高校へ進学するかもしれないと考えていたら、もう少しなんとかしただろうと思う。いや、なんとかしようがないのが彼なのか。ともかく、あの内申点でここで受験をするのは相当無謀だ。

 しかし、長男は、十勝管内一番の進学校の名前を挙げた。

「あの高校には特別枠があって、入試で一位から二十位までは内申見ないんだって。通知表がオール1でも入れるんだって」

 全十勝で二十位以内。うーん、その説明で受験する気になれる長男は、やっぱりある意味すごいと思う。

 

P90 六月某日 通学用リュックその1

 長男の通学用リュックが重い。居間に置きっぱなしだったのをどけようとしたが、微動だにしない。あらためて両手で持ち上げると、かろうじて持ち上がった。彼はこれを背負って毎日登下校しているのか。ピンと来た。彼なりの、登山のためのトレーニングだ。最上級生の彼はきっと、みんなの分の荷物を―たとえば食料や、飲料水や、もしかしたらテントなども―運ぶことになるだろう。毎日この重いリュックを背負って登下校することで、少しでも慣れておこうとしているに違いない。

「やるじゃん」

 声をかけたら、不思議そうな顔をした。

「毎日全教科の教科書とノートを持ち運んでるんだよ」 

 それだけか?鉄アレイとか入れてるんじゃないのか。

「登山に備えてるんだよね?」

「ううん、時間割揃えるのがめんどくさいから学用品全部詰めこんでるだけ」

 ほんとうか。だとしたら、必要なものだけを持っていくほうがはるかに楽ではないのか。

「なんで?こうすれば忘れ物しないし、効率的だよ」

 効率という言葉の使い方を間違っているような気がする。

 

P110 七月某日 時間割

 中学校の時間割が楽しい。毎週金曜日に学級だよりが発行され、翌週の時間割が発表になる。それを見るとつくづく感心するのだ。よくもこんなにのびのびした時間割を組めるものだなあ。

 美術はきちんと最後まで絵が描けるように、三時間とか四時間単位で組まれる。技術や家庭科もそうだ。町の特産品である蕎麦粉を使い、朝からクレープやガレットを焼いてお昼にみんなにふるまうという、通し四時間家庭科も楽しげだった。ちなみに、ガレットで包む具に半熟の卵が入っていたらおいしいだろうと考えた英国紳士は、毎朝早起きして温泉卵や半熟目玉焼きの試作品を納得いくまでつくっていた。実に役立つ家庭科だ。