こう見えて元タカラジェンヌです

こう見えて元タカラジェンヌです 遅れてきた社会人篇

 宝塚の佐藤二朗とは・・・確かに(笑)。一冊目の「こう見えて元タカラジェンヌです」もめちゃくちゃ面白かったですが、二冊目も、やっぱり天真さんいい!です。

 

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 ・・・私はいよいよ、「卒業してから初めて花組を観劇する日」を迎えたのだった。

 記念すべき1作目に観劇したのは、舞浜アンフィシアターで上演された、我らが明日海りおさん主演のスペシャルステージ『Delight Holiday』。夢の国であるディズニーリゾートが広がる舞浜にある会場で、これまた夢の世界であるタカラヅカの公演が行われるなんて……「まさに夢の宝石箱や~!」と私のテンションは上がりに上がっていた。

 ・・・

 ・・・ふと、かつて退団された上級生の方が観劇に来られた際に仰っていた言葉を思い出した。それは、

「辞めてから初めて宝塚を観たら、戻りたいと思って胸がギュッてなっちゃった」

 ということだった。

 もちろん人それぞれだろうとは思いつつ、「自分はどう感じるんだろう……?」ということが、突然気になり始めてしまった。・・・

 ……結論から言うと、戻りたいとは全く思わなかった。

 というより、降り注ぐ美の花嵐に、ただただ終始アワアワしていた。目の前に現れた、ズラリと並ぶギラッギラの男役達。ひとりひとりがスター候補生としてはちゃめちゃに輝いている。その真ん中に君臨する、トップofトップである、光り輝く明日海りおさん。キラキラが止まらない娘役さん達。そんな娘役さんの視線の先にいるバチバチにカッコいい男役さん達。

 ぎやあ、なんでこんなにカッコいいの⁈脚長すぎ!(特に鳳月杏さん)歌上手い!ダンスキレありすぎ!スーツ最高!好き!タコ足ダルマ(レオタードに「タコ足」と呼ばれるフリンジなど装飾のついたお衣装)素敵!アラジンみたいなお衣装素敵!カワイイ!カッコいい!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ‼生きててよかった!!!お母さん!!!!

 気がつくと私は拝んでいた。あまりの尊さに。

 ヒトは、あまりにもなにかをカッコいいと思うと、ありがたさに拝むものなのだということがわかった。そして思った。「タカラヅカは、出るものではなく、観るものだ」と。

 ここから先、全組、全公演を観に行く……その為に働こう。

 強い意志を胸に、私は会場を後にしたのだった……。

 

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 ・・・この歳になると、友人や劇団の卒業生などから結婚式の招待を受ける事が増える。心からお祝いする気満々で参加させてもらうのだが、披露宴の途中、新郎新婦のお色直しなどのフリータイム中に「ところで皆様はご結婚は?」という、来賓者同士の近況報告@披露宴会場ver.が始まったりする。

 私が「まだです」と答えると、「え⁉(まだ)結婚していないの?」という周りのリアクション。

 ・・・

「そりゃあ!できればしたいと思ってますよ!思ってますけど、その前にやりたいことが沢山あって……」

 とマジレスしていたこともあったのだが、その都度、過激派な既婚の方に

「いや~、結婚は良いよ!なんというか……一人前になれるよ」

 などと返され、その後延々と結婚することの良さを語り、そして一様に「早くしないと!」と急かしてくる。「できるならしたい、じゃ一生結婚なんてできないよ!行動あるのみ!」と。

 そして散々捲し立てた挙句、最終的には「まぁ~、ウチは今じゃ喧嘩ばっかしてるけどねぇ」的な、謙遜なのか知らんけど突然自分のパートナーをディスるような結びの言葉で締め、満足気にメインディッシュを頬張る。

 頼む、今は肉に集中させてくれ。

 内心そうは思いつつ、これ以上要らないプレゼンを続けられても困るので、「ね~!そうですよね~!」とただただ同意する、という返しを基本装備としていた。

 こういった既婚過激派による謎の「結婚している自分一人前マウント」は、日々の生活の中で多々ある。

「それって、アナタの感想ですよね?なんだろう、『結婚してる』から『一人前だ』と決めつけるのやめてもらっていいですか?」

 と問い詰めてやりたい。この概念に胡坐をかき、マウントを取ってくるなど、一人前の人間のやることじゃないといつも思う。

 ……とまあ、こんな風に年齢を重ねれば重ねる程、心配している風を装った「結婚しろ、一人前になれ」という圧力は増していく。

 そして……その「最大勢力」は、紛れもなく「実家」に存在するのだ。

 ・・・

 ・・・私もその話題で両親と喧嘩になるのは避けたいので、両親に「結婚する気はあるか?」と問われれば、したいわけじゃなくても「そりゃあ、したいとは思ってるよ」的な、両親の意見に賛同している素振りの返しをしてしまっていた。

 ・・・

 そんな私の内心は知らず、ただ結婚したい意思を汲み取った両親は行動を起こす。

 ある日、お見合いをすることになった。

 父の親戚の紹介で、お相手は家業を継ぐことになっており、私にも是非家業を継いでバリバリ働いてほしいと言っている。それを聞いた私は「嫁ぐ」というより、「再就職先」を見つけた気がした。

 就活もせずに一生働ける場を提供して頂けるなんて、結婚してからもずっと働きたいと思っている私にとってはとても嬉しい条件だった。

「ここで働かせて下さい!」

 そう思い、結婚を決意。そんな気持ちで、かるーい食事から始め、2回目に会う時には「結婚を前提とした」付き合いに変わっていった。

 そこに愛はあるんか?と問われれば……答えはNOだ。

 それよりも再就職先としてかなり魅力的であること、お相手のお義母さまともノリが合いそうだと直感したこと、なにより両親も勧めているということが大きかった。

 結婚を決意した私を見て家族は一安心。とても嬉しそうだった。ああ、良いことしたなぁ……などと思っていたのだが……。

 いざ結婚しようと決めた途端、それまでマスオさんのように柔らかな印象だったお相手の性格が急変。結婚が決まった途端、世間一般的な亭主と妻の関係を築きたくなったのか、私の行動一つ一つに「お小言」を並べ始めたのである。

「世間一般的には内助の功として務めるべきだと……」

「世間一般的には働いていても家事もこなしてもらわないと……」

「世間一般的には……」

「世間一般的には……」

 ……うるせえ!ワシは「世間一般」という言葉がこの世で一番嫌いじゃ!!!黙りやがれ!

 一瞬で悟った。この人とは一緒に生活することはできない、と。

 気がつけば私は、お相手と一度交わした結婚の約束を、1週間と経たぬうちに反故にしていた。

 ……私は一番大切なことを見逃していた。

 結婚とは……「生活」なのだ。

 ・・・

 冷静に考えれば……はじめから交わることのない道だった。まさに夜のボート(『エリザベート』で、夜の海に浮かぶ2隻のボートのように、ふたりの人生がすれ違いひとつに戻れない悲しさをうたった名曲)だった。

 ・・・

 じゃあ結局どんな相手が理想なの?どんな相手となら、穏やかに過ごせるの?

 そんな風に考えていた頃、偶然にも再会したのがひろくんだ。

 ひろくんと半日隣同士で過ごしただけでわかった。気を遣わずとも続く会話、なにもかもが「おもしれー」と思える新鮮さ。そして育ってきた環境がほぼ一緒だから、周りには理解しづらいと思われる価値観が理解してもらえる気楽さ……この人となら、超弱火で長~い間一緒に過ごせると思った。

 ・・・

 ・・・やたら重装備で現れたひろくん。

 結構長めの旅行にでも行きそうな程の荷物量だったので、どこかに行くの?と聞いてみると、

 ひろくん「タカラヅカの公演を観にこれから夜行バスで兵庫へ向かうんだ☆」

 とのこと。

 互いの仕事終わりに約束したので時刻は20時過ぎ。夜行バスは22時に出るので21時半過ぎにはこの店を出たいらしい。

 これから将来のことを決定しようという、割と大事な日に、制限時間を設けるとは。「流石はひろくんだ」と、謎に感心してしまった。