自然に無理なく・・・

パリママの24時間 仕事・家族・自分

 こんなに肩に力が入らない赤ちゃんとの暮らしがあるなんて、びっくりしました。

 

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 国際的大企業で、税務コンサルタントとして働き、私生活では事実婚、30歳で最初の子どもを産む。いまどきのパリジェンヌらしいプロフィールを持つ、エマニュエル。

「アーンスト・アンド・ヤングの国際税務部門のコンサルタントは、意外に思うかもしれないけれど、女性が多いのよ。企業コンサルタントって、時間の拘束が大きい職業だと思われているし、事実そうだけれど、女が多くなると、働きにくくはないの」

 子どもができたから長時間勤務はできません、と上司に言えば、理解してもらえる環境なのだそうだ。中には4人の子持ちの同僚もいる。

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「朝が遅くて、9時半に会社に着けばいいので、朝、1時間半、帰宅してからだいたい1時間くらい、エリオットの相手をしてやる時間がある」

 エマニュエルは、この生活が気に入っている。産休が明けて、エリオットを残して出勤することになったときも、赤ちゃんとの別れの辛さは感じなかった。

「それまでに充分、赤ちゃんとの時間を楽しんだと思うし、そろそろ仕事の生活が懐かしくなっていたの」

 ・・・家族手当公庫から、育児休職手当を受け取る権利があった。すべてに自然体のエマニュエルは、育児休職は絶対にしない、と決意していたわけではない。赤ん坊を産んでみて、いっしょにいたかったら仕事を休んでもいいと思っていた。けれども赤ちゃんが生まれて、産休明けまで水入らずの生活をしてみたら、これをまだ、あと1年続けたいと思わなかったのだ。

 エリオットの預け先は簡単に見つかった。インターネットの育児支援サイトに、「ベビーシッターを共同で」という、近所の人が出した広告があったのだ。広告を出したカップルは、赤ちゃんとその姉にあたる幼児のために、すでにコートジボワール出身のベビーシッターを確保していた。費用を折半する相手を探して何組ものカップルを面接したそうだが、エマニュエルとパートナーのオリヴィエは、運良くおめがねに適ったのだった。・・・

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 エマニュエルは、母乳育児はしなかった。特別、母乳育児に反対なわけではなくて、その気になったらやろうと思っていたが、生まれてみたら、授乳したい気持ちが別段わかなかったので、最初からミルクにしたのだ。最近、母乳で育てる人が増えていると世間では言うけれど、自分の周りを見ている限りでは、それほどのブームは感じない。母乳の人とミルクの人と、半々といった感じだ、とエマニュエルは言う。エマニュエルの産院でも、特別、母乳育児を強力に勧められたというようなことはない。やりたい人は母乳をやる、といったスタンスだ。

 エマニュエルは、子どもとの一体感はおなかにいたとき限りと思っている。生まれてきたときから、赤ちゃんと自分は二人の別々の人間だと考える。だから、授乳によって一体感を引き延ばしたいという願望はなかった。抱っこはよくしてやるし、かまってもやる。それで充分だと思う。

 母乳の免疫力についても聞いているけれど、ミルクで育ったエリオットもとても健康で、ほとんど病気はしないから、これでよかったと思っている。

 プジョーで新車開発のための部品バイヤーをしているオリヴィエとは、同棲してもう8年になろうとしている。すっかり結婚しているのと変わらない生活だが、法律上の結婚はしていない。赤ちゃんのエリオットも、もちろん結婚しないまま生まれた。

 こういうスタイルは、いまや、まったく珍しくない。むしろ多数派だ。2007年、フランスの新生児は婚外子がマジョリティになったが、そのほとんどはエマニュエルたちのようなカップルから生まれている。しかし、事実婚が広まり始めた70年代とは違って、事実婚カップルに、結婚制度に対する異議申し立てというような姿勢はない。

「私の両親は、今年で結婚35年になるけれど、今でもラブラブのカップル。そういう親を見ていて、私はなにひとつ、結婚に反対ということはないの」

 ただ、1970年代生まれのエマニュエルには、家庭を作るのに結婚しなければならないという常識のほうが存在しなかったのだ。

「結婚してもしなくても、まったく同じだから」

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「税金だけね、得になるのは、それも結婚した、その年だけのことだから、たいしたメリットとは言えない」

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 結婚に反対しているわけではないエマニュエルは、いつかそのうち結婚するかもしれない、とも言う。

「でも、どちらかというと、PACS・・・にしようかなって思っている。PACSも、その年だけは税金が安くなるのよね。それに、結婚より拘束が少ないし……」

 エマニュエルの言葉を裏付けるように、PACSの人気はうなぎのぼり。・・・現在、2件の結婚に対し、1件のPACSの割合で、そのうち結婚を押しのけそうな勢いだ。

 オリヴィエはおむつ替えもする、ミルクもやる、いまどきよく言われる「めんどりパパ」だ。「マッチョなところは微塵もない。家事、育児の負担は、きっかり半分。朝は私のほうが遅いので、エリオットの面倒を見る分、帰りは彼のほうが早いから、夕方の世話は彼。私はなにも不満はないわ」

 掃除は週1回、家政婦さんに頼んで、買い物は土曜日にまとめて二人でやっている。エマニュエルたちの世代になると、自分の母親も働いていたという男性が多く、オリヴィエのようなタイプはちっとも珍しくはないのだが、彼は出張がほとんどないところがとくにラッキーだったとエマニュエルは思っている。

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 ・・・赤ん坊抜きのウィークエンドもよくある。エマニュエルの両親も、オリヴィエの母もパリに住んでいるので、エリオットを預かってもらえる。おまけに双方とも初孫なので、エリオットは引っ張りだこだ。そんなわけで、1週間マルチニック島に行ったり、モロッコに行ったりと、二人のバカンスは、子どもがない時代と変わらないのだそうだ。

 まるで絵に描いたような、「パリの若夫婦」だが、虚像というわけでは、やはり、ないのである。