酔って言いたい夜もある

酔って言いたい夜もある

 角田光代さんとゲストの方の、お酒を飲みながらのおしゃべり。

 思いがけない話も出てきて面白かったです。

 

 こちらは漫画家の魚喃キリコさん。喧嘩できるのもびっくりですが、切り返しも凄すぎです。

P55

魚喃 ・・・あのね、ちょっと昔話していい?髪の毛が短いといかんせん男に粗雑に扱われるわけ。特に声低いし、タッパあるし乳ないし、女としての魅力がなにもないわけ。一昨年の夏、うだるような暑さでみんなイライラしてる日に、代々木の駅の階段を降りてたら、後ろのひとが私のアキレス腱を踏んだの。「ん?謝りが聞こえてこない」って、こっちもイライラしてるから下からにらみつけながら振り返ったの。そしたら、三〇前後のモテなそうな嫌な感じの男でね、「なんだよてめえ」とか言われて、こっちも「モテないくせに!」とか思って頭にきちゃって。階段降りた駅の通路で、お互い声張り上げて口論になっちゃって。

角田 なったんだ!

魚喃 そのときの私は、金髪、ショートカットで、TシャツにGパン。コンバースの汚い靴履いて、とても女扱いしてもらえるなりじゃなかった。男も男でカッカしてて、こっちも負けるかこのやろうみたいになって、あと一回なんか言ったら殴られるって思ったときに、「そのふてぶてしい顔、整形しろや!」って向こうが言ったの。思わず、負けちゃなるまいと思ってさっきまで「てめえが」とか言ってたのに、声色変えて「ごめんなさあい、私ホントはオカマなの。もう全部整形ずみなのよ、ごめんなさいねーぇッ♡」とか目を見ながら足もかくんとかわいくしてみたので。そしたら喧嘩する気も失せたみたいでクスって笑ったのね。心の中で「勝った……!」って思ったんだけど、よくよく考えたら負けてるよね?

角田 (涙を流して笑い転げて)あはっはっは……やめてー(笑)。

 

 こちらは作家の栗田有起さん。文字だけの夢って、角田さんさすが作家…と思ってしまいました。

P129

栗田 そうだ、これ聞きたかったんですよ、夢って色つきですか?

角田 はい、色も匂いもある。

栗田 ストーリーも?

角田 あるある。

栗田 夢の中でこれは夢だって気づくことあります?

角田 ときどきあります。

 ・・・

栗田 私は夢の中で「これは夢だ」って気づくことが度々あって、なんとかしてこれを生かせないかなって、中学生ぐらいから、夢だとわかると好きなことをするようにしたんですよ。嫌いな人を殴るとか。でも、探しに行こう!と思って探すと見つけられない。でもさ、自分の夢なんだから出てこいやーって感じでしょう?あるとき「あ、夢だ!よし今日は夢の中をじっくり観察して、それから殴りに行こう」ってやり方を変えてみたんですよ。あの崖の中は?とかのぞいてみると夢の中なのにちゃんとできてるの。すごいなーって観察して、よしじゃあそろそろって殴りに出かけようとしたら、周りの町の中を歩いていたひとたちが「それはやっちゃいけないよ」って。

角田 えー⁉

栗田 そのときにね、自分の夢なんだけど、夢って自分だけのものじゃないんだってすごく思った。・・・それで、夢に興味を持ったんですよ。アメリカのある大学でおこなわれた実験で、部屋をふたつ用意して、一方の部屋のひとは寝ていて、隣の部屋ではいろんな絵を見て、それを隣の部屋の眠ってるひとに伝えるということをやったんですって。起きたときに、どんな夢見ましたか?って聞くと、偶然ではありえないぐらいの確率で、隣で見せた絵とかぶる例があったんですって。しかも、画家がイメージの送り手だったりすると的中率がすごく上がる。・・・夢と無意識は繋がっている、なんていいますけどね。

―角田さんは文字だけの夢を見たことがあるんですよね。

角田 文字だけの夢はよく見ます。本を読むときって視界が文字だけじゃないですか。その文字だけの夢。ページを見てる夢。夢が目なんですよね。こないだ東野圭吾さんの本を読んで寝たら、そのストーリーが戯曲になって出てくる夢を見た(笑)。

―上映されてるんですか?

角田 戯曲。台本になってるの。セリフ割が書いてあるの(笑)。

栗田 私は、小説を書いてる最中の夢は、とても自分の夢とは思えないようなものをバンバン見る。見せられているような感じ。誰かの映画を見せられてるみたいになるんです。

角田 書いてるときと書いてないときは違うんですね。

栗田 違うんです。

角田 夢がヒントになったこともありますか?

栗田 ありますね。夢がきっかけになって、こうすればいいんだ!って。

 

 こちらは写真家の長島有里枝さん。

角田 私は『not six』(・・・旦那様の〝フミくん〟を七年間に渡って撮影した)を見て感動して、長島さんと一度お話したいと思ってました。あの写真集はどうして作ろうと思ったんですか?

長島 むかついてたから(笑)。私とフミくんは本当に仲が良かったのに、子どもが生まれたらそれまでと同じ種類の仲の良さでは生活できなくなっちゃって。・・・やっと最近どうにかなったんです。結局、結婚や家族に対して「こうしなきゃいけない」と思いすぎてて、そういう目で見たらフミくんはダメ男。仕事してないし、アメリカ行っちゃうしで、誰に話してもフミくんが悪いって言われる。でも私はフミくんが悪いわけじゃないとどこかでずっと思ってて。・・・

 この間、よしもとばななさんと対談したんですが、ばななさんのところは籍を入れずに、お子さんを認知しているそうですが、強く自然に生きてる。「うち、みんな寝るの朝の三時なんです」とか、うちの保育園じゃ考えられないけど、そういうもんだよなって思えた。結婚すると、とりあえずどっちかが世帯主にならなきゃいけない時点で、私もフミくんもお互い胃が痛くなっちゃう。フミくんに至っては年金すら払いたくないひとだし。スタントマンなんだし、なにかあったら困るから一応払おうよと言ってもダメ。・・・そういうことをいっぱい考えて、ある日スコンって抜けたんです。「私はフミくんを好きでよくて、フミくんはフミくんのままで全然オッケー」って。つまりパートナーとしては、長い目で見るとフミくんにアメリカに行って欲しくて、お金がなくてもスタントマンを続けて欲しい。でも奥さんとしてはものすごい困ってて、その自分がいつも戦ってた。それを解消するためには、ある程度距離をとればいいんだってわかった。結婚してるということを足枷にする必要はないんですよ。

角田 それはあの写真集を出したことと関係していますか?

長島 作りながら気持ちを整理している感じはありました。

 ・・・

 ・・・

 今回、長島さんに会うにあたって、彼女の初期写真集を見返していたのだが、本当に、とんでもないひとだなあと思う。ぶっとんでいる、という言葉が生やさしい。彼女が素っ裸の家族写真を撮ったときから、一〇年以上がたっているけれど、あいかわらず彼女はぶっとんでいるし、とんでもないひとだと思う。だからといってセンセーショナルなのではない、彼女はひょっとしたら至極まじめなんじゃないか。なにに対するまじめさかといえば、自分、というものにだ。自分に対して彼女は妥協がないし、手抜きがないし、逃げ道がない。ぶっとぶくらいのまじめさなのだ。彼女が彼女であるかぎり、だから、長島さんはぶっとび続けるんだろう。