以前、初耳学に柴田陽子さんが出演されていたのを見て、どんな方なのかもっと知りたいなと興味が湧いて読みました。
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私は、人間を扱ったドキュメンタリー番組が好きで、よく観ます。中でも忘れられないのが、一人のカリスマ介護士の仕事ぶりを追ったものでした。
その介護士が担当していたのは、家族の顔もまったくわからなくなっている、重度の認知症の老人。その老人からは、笑顔がすっかり消えていました。それどころか、感情がネガティブなほうへと転んでしまっているからか、毎日、周囲を怒鳴りつけてばかりいて、家族は嘆き悲しんでいました。
介護士は、「もう一度、家族におじいさんの笑顔を見せてあげたい」と考え、あるアイデアを練りました。それは、施設の中で「ガソリンスタンドごっこ」をやるというもの。そのおじいさんは、戦後の高度成長期から何店ものガソリンスタンドを経営していた、という話を介護士は家族から聞いていたのです。
施設の中のちょっと広いスペースに、介護士仲間と一緒にダンボールなどを使って給油マシンに似せたものを作り、スタンドを継いだ息子さんから借りたユニホームも着込みました。そこに、車椅子に乗ったおじいさんを連れてきました。
「いらっしゃいませ!」
「ガソリン、満タンでよろしいですか?」
そんな子どもだましなことが……と思うでしょうか?ところが施設のスタッフが大きな声を出して、あたかも本当のガソリンスタンドのスタッフのように振る舞うと、最初は不機嫌で、表情も失っていたおじいさんが、顔を真っ赤にして、涙を流しながら拍手をし続けていたのです。
私は、それを見て「仕事ってすごい!!」と思いました。
家族の顔もわからないようになってしまっても、その人の心に一生懸命働いた記憶が残ってる。このおじいさんにとって、社長としてたくさんのスタンドを経営していた日々は、大きな誇りとして在り続けるのでしょう。
私もどうせ仕事をするのなら、こんなふうな仕事の仕方をしたい。
もっとも、私がここで言いたいのは「がむしゃらに働くことのすすめ」ではありません。仕事というものが持つ素晴らしい側面を、自分の人生の中に取り込んでいったほうがいいと、言いたいのです。・・・
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母から言われたことがあります。
「あなたみたいに〝普通の子〟が、どうしてこんなに大きな仕事をいただけたり、社員の皆さんについてきてもらえているのかしら」
母は首をかしげていましたが、ふと何かに気づいたように、私が子どものときのエピソードをひとつ話してくれました。小学校4年生の頃、友だちから筆箱をプレゼントしてもらって、私はこんなことを話していたんだそうです。
―この筆箱は、このあたりのショップでは売っていないから、その子はこれを買うために電車で〇〇駅まで行ったはずだ。移動だけで往復2時間以上。これを選んで包装してもらうだけでも30分。ってことは、3時間くらいかけて、これを買ってきてくれたことになる。土日の半日を私のために使ってくれたんだね、ママ。と。
私は普通の子でしたが、想像力を駆使し、相手を物語の主人公にして、映像が見えているかのように思い浮かべてしまうところは、人と違っていたようです。
母からその話を聞かされ、私は今でも目の前にいる人について、ただとりとめなく想像してるわけでなく、その人の背景を、物語として想像しているんだ、ということに思い至りました。
・・・
・・・この想像力は、いい人間関係を構築していく上で、大きな武器になると思うのです。
かなり急いだ様子で来社したお客様がいて、息を切らしている。あなたは、ごくごく飲みやすいように1杯目のお茶をぬるめに出し、続けて熱いお茶を用意した。あなたにとっては当たり前のことだったのに、その行動に感激したお客様が、たくさんの感謝とともにあなたの細やかさを評価してくれ、商談もうまくまとまり、結果的に社内でのあなたの評判もうなぎのぼり……。こんなことだって起こりえるのですから。
私たちは普段から、人に何かをしてあげたり、逆に人に何かをしてもらったりしていますよね。ただ、お互いに「していること」の価値を理解していなかったら、その努力は完全には報われません。
今、目の前で起きているのは、ほんの些細なことかもしれません。でも、すべてのことに、「見えない価値」があると考えてみてください。
誰かがしてくれたことには、必ずその人の思いが入っています。そこに「価値」を見つけ出し、それを相手に伝える。場合によっては、本人さえ気づいていないその価値を理解してくれると、人は嬉しいし、感謝もするし、相手を大切に思う気持ちが芽生える。そうすると、人間関係は、いい形で回っていきます。「価値の理解」は、望ましい人間関係を構築していく上で、かなり重要なポイントとなるのです。
「価値の理解力」を上げるには、なによりも、「背景の想像力」が必要です。その人がどんな人で、どんな状況で、これをしたのかを、想像する力です。これには、普段から「何でも観察しておくこと」に尽きます。