学校ってなんだ!

学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書)

工藤勇一さんと鴻上尚史さんの対談本、興味深い内容でした。

 

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工藤 ・・・私や鴻上さんだったら、「まあ、不登校でもいいよね」「別に学校行かなくたって、いくらでも生きていく道はあるよね」って言っちゃうと思うのですが、家庭によっては、逆に意識しすぎることでむしろ問題を悪化させて、自室にひきこもり状態になってしまうこともあります。それを解決していくためには、やはりそれなりにリハビリが必要です。

鴻上 リハビリですか。

工藤 麴町中って、不登校の子どもが山ほど入学してくるんです。転校生のなかにも多い。

 じつは不登校状態というのは、変な話なんですけど安定しているんですよ。不登校であることで安定を保持している。この安定した不登校状態を改善させるためには、リフレーミングといって、もう一度枠組みをつくり直す必要があります。

 私はまず、ご両親に会って「お母さん、たいへんだったでしょう。つらかったでしょう」と話しかけながら、不安を解いていきます。「自分の育て方が問題だったのかと思い悩んでいませんか」「お父さんから、おまえのせいだと言われたりしていませんか」。そんなことも話しながら、こう伝えます。

不登校はね、お母さんの育て方とかお父さんの育て方とかまったく関係ないんです」

 実際そうなんですよ。「子どもを甘やかした」って後悔している人もいますが、子どもに甘いことが原因でみながみな、めちゃくちゃになるかといえば、けっしてそんなことはない。では、なにが問題なのか―私は続けてこう言うんです。「自分を責めないでください」

 お母さんが自分を責めたり、あるいは両親が互いを責めたりしていると、子どもに伝わるんですよ。自分のせいで両親が責め合っていることは、多くの子どもが知っている。これ、子どもにとってはつらいことです。そうなれば、子どもはまず自分を責めるようになりますから。子どもにとってはものすごい苦痛ですよ。自分を責めてばかりでは、やっていけません。同時に、両親のことも責めるようになる。これでは子どもの自律のスイッチは入りません。だから大事なのは、両親が自然な姿に戻ることなんですね。僕はご両親にこう話します。「まず、不登校である状態が不利じゃないということを、お母さんもお父さんも理解してください」。そのうえでいろいろな情報を伝えます。中学校や高校に行かなくても大学に進むことはできるし、学校へ行かなくたって問題ないのだと教えてあげるのです。

鴻上 ほんとうにそうですよね。一般に思われているほどに、不登校は大した問題じゃない。

工藤 そのうえで、ご両親には「お気持ちや心は、基本的に何も変わらなくていいですよ」と伝えます。大人は、自分の価値観を変えることができなければ、行動そのものを変えることができないと思っている。変えるのは難しいんですよ。苦しくなるばかりで。だから「変わる必要なんかない」と言ってあげるんです。ただ、言動についてはしなければいけないことはあります。それは「いいことは続け、だめなことはやめる」。それだけです。

 具体的にはどうするか。たとえば朝、子どもを起こしにいく。声をかける。しかし、子どもは反抗したり、ときに暴れたりする。これは失敗のパターン。つまり「だめなこと」です。だから次の日からは同じ方法を用いない。違う方法を考えます。

 朝、声をかけてもだめならば、前の晩のお互いに落ち着いた状況の時に子どもに声をかけてみます。「起こしてほしい?」と聞いてみる。一人で起きることができるのか、何時に起こしてほしいのか、質問してみるのです。起こしてほしいのだと子どもが意思表示すれば、「何時に起こせばいい?でも、お母さん、起こしに行って文句言われるのは嫌だな」とも言えばいい。「どうしたらいいかな?」。あらためて子どもに訊ねる。

鴻上 つまり、親は子どもを見捨ててはいないのだということを、それとなく伝えるというわけですね。どうするのかと聞くことで、子どもに決定権も与える。尊重されているような気持ちにもなりますよね、子どもとしては。とても大事なことですね。

工藤 麴町中では「リハビリのための三つのセリフ」というものを定めています。職員室のなかにも、これがベタベタとあちこちに貼られているんです。

 すごく簡単なことです。セリフの一つめは「どうしたの」。子どもにどんなことが起きても、まずは「どうしたの?」「困ったことがあるの?」と聞いてみる。教室を飛び出してしまった子どもがいても、とっ捕まえたあとに「どうしたの」と訊ねてみるんです。そうすれば「あの先生の授業つまんないから出てきた」「あいつ嫌いだし」と理由を話してくれます。先生はそれを「へえ、そうなんだ」と耳を傾けていればいい。

 二つめのセリフは、「それで君はこれからどうしたいの」。子どもの希望を聞き出すわけですが、反抗的な子どもからは、なかなか言葉が返ってこない。そうしたら三つめのセリフを投げかける。「何か支援できることある?」「手助けできることあるかい?」。これだって最初のうちはなかなか言葉が返ってこないことも多いのだけれど、そんなときはこちらで選択肢を用意してあげればいいのです。「そうだな。僕が支援できるとすれば、せいぜい別室を用意することぐらいなんだけど」「君が今からやることは教室に戻って一時間我慢して授業を受けるか、または僕が用意した別室で何かやってるかということが選べるけど、どうする?」と。だいたい、「別室に行かせてくれ」となりますよ。その場合でも、ただ別室に連れていくだけではなく、「何をする?」と重ねて訊ねることです。やることがないのだと言われたら、タブレットでも渡せば、YouTubeでも見ながら静かに遊んでいますよ。それでいいんです。

 大事なのは鴻上さんも指摘した通り、本人が決めるというプロセスなんです。三つのセリフというのは、すべて自己決定せざるを得ないものになっています。

 だからこそ、私は親にも同じことを言います。子どもに話すときはできるだけ質問のようなかたちにして、自己決定させろと。