笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考

笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考(1)

水曜どうでしょう」のディレクター藤村忠寿さんのエッセイです。

 藤村さんが大事だとか、いいなと思うことは、なにか心に響きました。

 

P21

 先日、萩本欽一さんと一緒に食事をする機会があったんです。あの「欽ちゃん」ですよ。「今テレビでおもしろいことをやっている人と話をしたい」ということで、「それなら藤村くんたちでしょう」と、ある人が僕と嬉野さんを紹介してくれたんです。

 ・・・

 聞けば欽ちゃんは、たまたまテレビをザッピングしてて「水曜どうでしょう」を見たことがあったらしいのです。「なんだろうコレ?」と気にはなっていたと。「北海道におもしろい番組がある」という噂もチラッとは聞いていたと。

 そして今回、僕らと会うことになって初めてDVDをちゃんと見て「あー!この番組かぁ!」って、ようやくすべてがつながったらしいのです。その感想が・・・「キミたちはテレビのこと本当に好きなんでしょー」っていう言葉で、それはテレビマンにとっては最高の褒め言葉で。

 そして欽ちゃんは席につくなり「あの番組はさぁースタッフと出演者が信頼し合ってるのがわかるんだよねー」「あの番組はさぁー勇気があるんだよねー」「あの番組はさぁー東京の笑いなんだよねー」と続けざまに「水曜どうでしょう」の本質を突いた言葉を簡潔に語ってくれて。

 それから僕はずっと欽ちゃんの隣で話を聞いて、バカ笑いをして、欽ちゃんは僕の隣で身ぶり手ぶりを交えながら、ほとんど食事にも手を付けず、ウーロン茶二杯だけでなんと!四時間も話し続けて。それは七十歳を超えた人とは思えない熱情で。

「そうなんだ、この人の熱情が日本のバラエティーを作ったんだ」って心から思えて……。あーもう全然!文字数が足らない!

 次回も欽ちゃんと食事をしたときのことを書かせていただきます!

 

「欽ちゃんと一緒に食事をしたときの話」二回目です。

「キミには師匠みたいな人はいるの?」って聞かれたんです。「いないですねぇ」って答えたら、欽ちゃんは「ボクの師匠はハトなのよ」って言うんです。鳥のハトですよ。

「窓の外にハトがいてね、もっと近くで見たいと思って……」。それで窓に近いところにエサをまいてハトをおびき寄せたんですって。そしたらある日、目の前までハトがエサにつられてやってきて、欽ちゃんとバチっと目が合ったんですって。

「ハトはびっくりしたと思うよー。でも、うわぁ!って驚かないんだよね。ボクの顔をじっと見ながら、そのまんまパクパクとエサを食べ続けて、それからなんとなーく離れていったんだよね」「本当はものすごく驚いてるくせにさー、しらばっくれてパクパクやってんだよねー」「役者がさ、驚いた芝居をするとすぐにうわー!ってのけぞるじゃない。それよりもボクを見て、どうしていいかわかんなくなってエサを食べ続けてるハトの驚き方のほうがおもしろいよねー」

 そう言って欽ちゃんは、僕の前でハト師匠の驚き方を実演してくれました。僕が「欽ちゃん!」と大声で言うと、欽ちゃんはサッとこっちを向いて、表情のない顔で口だけパクパクさせながら僕をじっと見るんですよ。しばらくミョーな間があって、無言のままサッと顔をそらす。「ちょっと欽ちゃん!」ってまた言うと、おんなじことを何回でもやってくれまして、もうそのたんびに笑い過ぎ、しまにはお店の人に「他のお客様もいらっしゃいますのでもう少しお静かに」なんて、欽ちゃんと二人で怒られちゃったりして。

 ・・・

 欽ちゃんは、初めて会った僕らに、そういう話をたくさんしてくれました。僕も、自分なりの番組に対する考え方を話しました。すると欽ちゃんはね、僕にこう言ったんです。

「そういう考え方をボクも知っていればなぁー!もっとおもしろいことができたのになー」って。

 こっちはもうその言葉に感動してしまって。欽ちゃんは、お笑い界の大御所なんかではなく、今も前のめりでおもしろいことを考え続けている人でした。

 僕の心は今やすっかり欽ちゃんファミリーです。