本来のすがた

コロナの暗号 人間はどこまで生存可能か? (幻冬舎単行本)

 本来の自分に戻る、というのは本当に大事なことですね…。

 

P142

 私が不登校の子どもたちと会ったのは、大越俊夫という方が始めた不登校生のための私塾でした。塾長の大越氏は、四五年以上にわたり、七〇〇〇人を超える引きこもりや不登校で悩む若者に向き合ってこられました。現在も学校に行きづらい子のための学び舎、「Dull Boi Academy(ダルボイ・アカデミー)」で塾長をされています。

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 人は、遺伝子のON・OFFによって変われます。しかしその「変わる」ということは、その人が別の人になってしまうのでしょうか。その点に疑問が残ります。

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 ・・・大越氏の著書『6000人を一瞬で変えたひと言②』(サンマーク出版)・・・の冒頭で大越氏は、「変わる」ということの本当の意味として、次のようなことを書かれています。

 

 人は一瞬にして変われる。それはなぜだろうか―。

 前作『6000人を一瞬で変えたひと言』を読んでくださった人たちから、いろいろな感想をいただいた。

 なかには、「そんな、一瞬で変われるなんてウソだ」と言った人もいた。

「現に今、私は変われなくて苦しんでいる。でも、あなたのところの子どもたちは、一瞬で変わったという。なぜだ、何が違うのか」

 そう真剣に問われたこともあった。

 そんな一人に、あるジャーナリストがいた。

 彼は、四百年ものあいだ変わらない一つの商品だけを作り、売り続けている、ある老舗企業に興味を持った。すべてが激変していく世の中で、変わらぬ商品一つで生きのびている。しかも無借金の優良会社で、東証一部上場も果たしている。

 片や一瞬にして変わる子どもたち。片や四百年も変わらない会社。

 彼は、この両極端に見える二つの現象に、何か通じるものを感じたらしい。

 ある日、私にこう言った。

「大越先生、ここの子どもたちは、本当に一瞬にして激変する。そのことを私は、別人のように変わる、と言おうとして、待てよと思いました。彼らは本当に別人になったのか。似ても似つかない別人格の人間になったのか。どうもそうではない。むしろ本来の自分に戻っている。変わらない自分に戻っているのではないでしょうか」

 私は、彼の気づきに感心しながら、こう答えた。

「ええ、そのとおり。親御さんは、自分の子どもが別人のように元気になったと喜んで感謝されますが、そんな時私は言うんです。とんでもない、お子さんは自分で元の自分に戻った。本来の自分を取り戻しただけ。私たちはその手伝いをしただけだと……」

 

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 ・・・つまりその人も企業も、本来持っている遺伝子がスイッチONすることによって、元気な状態、安定した状態を取り戻し、維持できるということでしょう。

 

ホセ・ムヒカと過ごした8日間―世界でいちばん貧しい大統領が見た日本

 たまたま読み返していたこちらの本のこの部分も、なにか同じようなメッセージに感じられました。

 

P142

 日本での最終日、ムヒカさんは東京の港区にある小学校を訪れた。このとき一人の児童から「ムヒカさんにとって一番幸せな瞬間はいつですか」と問われて、

「目を覚ましてベッドから起きて、陽が昇っているのを目にし、鳥のさえずりを聞き、草の緑が青々としているのを見たときです。自分が本当に生きているなあと思うし、生きていることに感謝したい気持ちになるのです」

 と答えた。

 あとで私が「ムヒカさんがそんなふうに感じるのは、獄中での体験があったからですか?」と聞くと、ムヒカさんは即座に「ノン」と否定したのである。

「いままで繰り返し説明してきたからうんざりしているんだが、つらい経験があったからというより、人生に対する愛なんだ。生きていることよりも重要なことなんて、この世にはないんだよ」

 そして青い目でこちらを射抜くようにして言った。

「鳥はね、一日が始まるといつもさえずるんだよ。そのあと食べ物を探しに行く。でもまず、彼らはさえずるんだ」

 ムヒカさんは、テレビ番組でこうも言っていた。

「本当の幸せは、心から満たされていることです。今日太陽が昇ることに感謝をし、生きたいと望むことです」