芝居も人生も

ピーことば―ピーコの言葉

 こちらは奈良岡朋子さんとのお話です。

 

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奈良岡 ・・・ピーコは、若い人に対しても先輩に対しても気遣いがあるのよね。

 

ピーコ あら、珍しく褒めてる。

 

奈良岡 私がピーコを好きな一番の理由は、思ったことを正直に、修飾しないでストレートに言ってくれるからなの。ある程度キャリアを積んでくると、上の先輩がいなくなって、芝居のことに関しても単刀直入に「あそこは面白くなかった」とか「あそこは何を言っているのかわからなかった」なんていうことを、ぶつけてくれる人がいなくなるんです。それは寂しいことよ。でも、ピーコはきちんと言ってくれる。率直な会話を素早くキャッチボールができるのが楽しいの。

 

ピーコ そう言っていただけて、本当に嬉しいわ。

 

奈良岡 こんなに勉強する人もいないと思いますよ。頭の回転もいい。優しい。それでいて限度があるんです。ここまでは自由にお互いに言い合うけれど、そこから先は一歩も踏み込まないという。親しき仲にも礼儀ありみたいな。それはどんなことがあっても崩れない。

 

ピーコ 人に気を使うのは、姐さんや石井好子さんが教えてくれたことでもあるの。姐さん自身が人にいっぱい気を使っているでしょ。気を使う人って、相手も気を使う人だとつき合ってもホッとするのよ。それに、私は奈良岡朋子という役者が好きで、すごく尊敬しているのよ。姐さんは、今でも休みがあったら海外にも出かけていって、芝居やミュージカルを観て、作品を探しているじゃない。地下鉄や電車の中でも、姐さん、人をじっと観察したりもしているでしょ。本もたくさん読む。

 

奈良岡 本は読みますね。自分の人生ってひとつでしょ。でも私たちは、役を通していろんな人生を生きなくてはいけない。見たり聞いたりはしても、試すことはできない人生がいっぱいあるわけ。その試せないものをどうするかというと、文字なのね。いろんな作品を読むと、この女性はこういうことを思っているんだってわかってくるの。

 ・・・

ピーコ 旅に出て、演じて、また移動して、演じてを繰り返しているのよね。それで、全部の舞台、姐さん、納得しているの?

 

奈良岡 その都度その都度、一所懸命、やっているからすべての作品に愛情はありますよ。たとえ失敗と言われてもね。みんなわが子みたいなものなの。でも納得しているかといわれると……理想というのは、手が届かないものじゃない?それに何でも自分が思い描いたものがそのままそっくり手に入ったらサ、面白くないじゃない、そんな人生。

 

ピーコ 確かにそうだけど……姐さんのこの言い方が怖いのよ。

 

奈良岡 でもそう思わない?嫌なことも乗り越える。登れる山があったら登る。登り切ったら下りる。また山がある。また登る。生きるってそういう感じじゃない?役者の仕事も人生も。

 ・・・

ピーコ こういう話をしながら、年に2,3回、ご飯を食べるのよね。

 

奈良岡 芝居を観に来てくれて、その帰りに、だいたいピーコが連れていってくれるのね。

 ・・・

ピーコ ・・・でも姐さん、普段は劇団の若い人と同じもの、食べているんでしょ。

 

奈良岡 出されたものは食べるの。みんなと一緒にホカ弁も食べる。そして自分の力でできる範囲で、いいものも知る、持つ、食べる。できれば住む。いつどんな役をやるかわからないから。ピンからキリまで知っておかないとね。

 

ピーコ それって、生きるうえでも大事じゃないかしら。自由でいられるもの。