信頼

ピーことば―ピーコの言葉

 こちらは吉行和子さんとのお話、素敵な関係だなと思いました。

 

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ピーコ 和子と会っていて、いいのは、すごく楽なこと。女の人って「味方になってくれなきゃ嫌だ」とか「わかっているでしょ」とか、「何かしてあげたのに……」というのがあるじゃない。そういうことがないのよね。私たちが長く続いているのは、心の中に土足で入るような関係じゃないからじゃないかしら。こまごました相談をして相手に頼ったりはしないでしょ

 

吉行 そうね。

 

ピーコ 私は今こういうことで困ってる、ということは報告するけど、助けてとは言わない。それをしないから仲良くいられるんだと思う。

 

吉行 負担をかけたくないのね。ある意味、家族みたいな感じなのかもしれない。家族ってそんなにベラベラしゃべったりしなくても、心が通じ合って、絶対に信頼している絆みたいなものがあるでしょ。私たちふたりは、それにとても近いような気がする。

 

ピーコ ひと言で言うなら、さばさば。

 

吉行 それが嫌で去っていく人もいるのよ。私、ずいぶん言われました。一緒にご飯食べたりして、「さよなら」って別れて。そしたら、女友達「あなたって、さよならと言ったら、一度も振り向かないわね。それが嫌だ」って。

 

ピーコ 私も振り返らないわよ。さよならはさよならだもの。

 

吉行 そう言ってくれる人はまだいいの。それが原因で、お高くとまっているとか、思っちゃう人もいるの。全然そんなんじゃないんですけれど。そういう人には私みたいなの、物足りないのよ。

 

ピーコ そういうべったりした関係は、いずれにしても長続きしないわよ。自分の思いを人に押し付けているもの。私が目の手術をしたとき、和子は1週間、毎日、病院に来てくれたじゃない。あれは嬉しかった。

 

吉行 お見舞いに行きたいから行ったの。お見舞いに行かなくてはいけないとか、励ましてあげなくてはいけないとか、そういうんで行ったんじゃないの。自分がしたいからしただけなのよ。だからお礼なんて言わなくてもいいの。毎日、デパ地下でお弁当を買って、小田急線に乗って、病院に行って。ピーコの顔を見て。

 ・・・

ピーコ だから、小田急線の切符も買えるようになったし、デパ地下でお弁当も買えるようになったんだもんね。

 

吉行 目をとるって、ピーコから報告があったとき、なんて男らしいんだろうと思ったの。どうしようとうろたえたり、悲しいとか泣き言いったり、そういうことまったくなかったでしょう。すごい決断力だと思った。

 

ピーコ しかたなかったのよ。

 

吉行 そういうときって、相手にこんなに大変なんだってわかってほしくなるものじゃない。それをぐっと我慢して。こちらに負担をかけるっていうことをしなかった。

 

ピーコ 和子だって、言わないじゃない。前に病気したときだって、私、全然、愚痴を聞いてないわよ。

 

吉行 言わないのよ。負担をかけたくないから。

 

ピーコ おんなじよ。こっちだって余計な心配かけたくないもの。和子が入院したときは、お見舞いに1回行ったけど、あとは私、遠慮したの。私はゲイだけど、女の人は病気になったとき、人に見られたくないだろうなって。年をとればとるほどそう思うわよね。

 

吉行 そう。病気になったとき、お見舞いされるの、すごく疲れるんですね。・・・付き添いなんかいないわけじゃない。病気なのに、お見舞いの人に自分が気を使わなくてはならないから。ピーコのお見舞いのときも、病院の庭、ふらふらして、あまり病室にいないようにしていた。

 ・・・

 私の経験では手紙をもらうのが一番嬉しかった。花や食べ物はちょっと大変で……。

 

ピーコ 何度も読み返せるものね、手紙って。よくなってから読み返しても、嬉しいの。

 

吉行 季節の挨拶なんかどうでもよくて、ほんのちょっとした文章で嬉しいのよね。

 

ピーコ うまく書こうとか思っちゃダメね。・・・