美しいってなんだろう?

美しいってなんだろう?

 矢萩多聞さんが、娘さんといっしょに、美しいってなんだろう?と考えてみたことが書かれている本を読みました。

 何か、風というか空気というか、そういうものが伝わってくるような感覚がありました。

 

P204

 インドで口琴という楽器を習ったとき、ぼくの先生は授業料のお金をぜったい受け取ろうとしなかった。

 彼はいった。

「きみが楽器をつかうのではない。自分が神さまの楽器になるんだ。羊飼いでも、医者でも、鍛冶屋でもおなじ。どんな人も平等にそれを楽しめる。空も大地もうたっている。自分のからだをつかって歌をひびかせるだけ。音を楽しむ、それが音楽だ」

 人間がいろいろなかたちをした笛だとしたら、それぞれちがった音がでるはずだ。どんな笛も風が、神さまの息が通り抜けるのはおなじ。その風をせきとめさえしなければ、ずっとうたいつづけられる。なんて自由な世界だろう。

 のどをきたえ、正しく美しい音を探して、楽器をなぞるのではない。あらゆる音はただあるだけで美しい。ぼくらは風の通り道を通って、おおきないのちにふれることができる。