私が本からもらったもの

私が本からもらったもの 翻訳者の読書論

 8人の翻訳家の方々と、本との出会いや転機などをテーマに対談したものをまとめた本。面白かったです。

 「本からもらったものは?」という質問に対する答は、このようでした。

 

ドイツ文学の鈴木芳子さん

P32

鈴木 ズバリ生きることですね。生きる喜び、それから生きる勇気、感動と教養、友情と勇気。これですね。よく「筋肉は裏切らない」と言われますね。私はさらに「感動は裏切らない。教養は裏切らない」と続けたい。「より良い人生を歩むための三つのK」として「筋肉、感動、教養」をあげたいと思います。

 

ロシア文学貝澤哉さん

P64

貝澤 それを「人生」と言っちゃうとすごくベタな感じになっちゃうんですけれども、さっき言った、いわば「冒険」かな。タイムマシーン的な冒険ですかね。家に居ながらにしてスリリングなことが起こる。・・・

 

フランス文学の永田千奈さん

P91

永田 ・・・私が本からもらったものはやっぱり「居場所」ということになるかなと思うんですね。本をひろげると、そこが歯医者さんの待合室でも電車の中でも、とりあえず自分の居場所ができるし、ちょっと落ち込んだときなんかでも、本の世界というのはダメ人間がいっぱいおりますので、仲間を見つけて自分の居場所を見つけることができる。

 

英米文学の木村政則さん

P118

木村 僕をこの世に繋ぎとめているものですね。たぶん本がなかったら生きていけないと思う。大袈裟な言い方をすると、そんな感じです。昔は1番が音楽、2番が映画、3番が小説だったんですけど、今は順番が入れ替わって、1に音楽、2に小説、3に映画になりました。この3つのうち特に上位2つは、なかったらまともに生きていけないと思います。生きるために必要なもの。僕は人と関わらなくてもまったく大丈夫なんです。極力関わらないで生きていきたいと思っているのですが、独りでいるときに音楽と小説がないとたぶん生きていけない。本を読むことは教養ではまったくないんです。昔はお腹が空いて倒れる寸前まで本を読んでいましたから、それくらい必要なものです。

 

英米文学の土屋京子さん

P144

土屋 本からもらったものは、辞書からもらったものに私の場合は言い換えちゃうんですけれど。辞書を読む楽しみっていう、それが昂じた先に翻訳という仕事があったと思います。こういう英文を自分だったらどう訳すだろうとか、この作家が日本語で書いたとしたらどう書いただろう。そういうことを考える楽しみを私に最初に教えてくれたのが英文和訳の辞書だった。

 

フランス文学の高遠弘美さん

P174

高遠 ひと言で言えば、生きる喜び。そして、この世にある奇跡のような偶然を言葉の世界を通じていっそう深く強烈に感じる喜び。そういうところでしょうか。

 

ドイツ文学の酒寄進一さん

P200

酒寄 想像力を養ってくれたことかな。言葉だけだとね、映像もないし音もない。音楽小説でこんなに大変なことはないんですよ。音楽だったら音を聴けばもうそれでオッケーなんだけど、音楽小説は音を鳴らせないのでその音をどう言語化していくか。あるいは映像も、けっこう小説は映像的な場合があるんですけど、逆に言うと実際には映像は文字にはなくて、文字で表されたものを僕らが映像化していくわけじゃないですか。どれだけ色が付いたり形が見えてきたり、それを膨らましてくれるかというのは言葉の力ですので。想像させてくれる、それが言葉の魅力だし文学の魅力なのかな。僕が翻訳しているファンタジーのジャンルは大変です。まさに想像の世界ですから。

 

日本文学の蜂飼耳さん

蜂飼 何でしょうね。ひと言で言うと、人生の部品みたいなもの。・・・人生と言ってもいいんでしょうけど。人生の部品かなと思います。人生を成り立たせているネジとか、そういうもの。欠けるとバラバラになっちゃう。ネジで留めるようなイメージがあるんですね。・・・人生のかたちを成り立たせる部品ですね。