シンクロの鬼と呼ばれて

シンクロの鬼と呼ばれて(新潮文庫)

 図書館でふと目にとまって、手に取りました。

 井村雅代さんの言葉を読むと、まっすぐな風が吹いてくるようで、その勢いで一気読みしてしまいました。

 

 聞き書き役をされた方が、こんな風に書いています。

P263

 井村雅代さんは、圧倒的な、信念の人である。

 あえて、圧倒的という言葉を使うのは、彼女ほど自分の判断による白と黒、YESとがはっきりしてブレない人に、会ったことがないからだ。
 他人と衝突するのは疲れるし、損をするだろうから、ここは相手の言うことを聞いておこうといった処世の術が皆無と言っていいほどに、井村さんは、どこまでもシンプルに信念を貫く、潔い人なのだ。そんな彼女の潔さは、自身が打ち込んできたことの結果が得点や勝敗で示される、スポーツの世界に生きてきた人だけの持つ「特権」の賜物であろう。・・・

 また、彼女には、指導者として誰にも真似できないほどの圧倒的な点が、もうひとつあった。それは、教える者に対して持ち続ける、「愛」である。

 彼女が、オリンピックをはじめ、数々の国際試合で輝かしい成果を挙げてきたのは、選手たちをどんなに厳しく叱っても、「この人についていきたい」と思わせることができたからで、その圧倒的な愛の力には、羨ましさを超えて、深く、深く、頭が下がる。

 

 こちらはご本人の言葉です。 

P110

 お金のためだけに生きている人や、有名になることばかり考えている人や、組織の偉い人になびいて、自分の意見を簡単に変えてしまう人が沢山いますが、私は、そんなくすんだ人生を送るのは嫌。私には、そういう生き方はできません。

 教えている子供たちにも言うんですよ。

「世の中を見たら、ずるく上手に生きている人がいるよね?片や、コツコツと努力してることが、なかなか実らん人もおる。自分は真面目にやってるのに、ずるい人がええ成績を取って、それを羨ましいと思うんやったら、そうしたらいい。それで自分が後ろめたくなかったら、どうぞそうなりなさい。どっちに生きるかは、あなた自身の選択や」って。

 私は、人生を納得して、気持良く生きたい。

 どっちを生きるかは、その人の人間性と、知性と、教養なんです。