コロナの暗号

コロナの暗号 人間はどこまで生存可能か? (幻冬舎単行本)

 タイトルは何かちょっと怖そうな雰囲気ですが、中身は落ち着いた穏やかな雰囲気で、考え方や姿勢を教えてくれるものでした。

 

P221

 ダライ・ラマ法王はかねてから科学に関心が高く、以前から、宇宙論神経心理学、量子物理学などを学ばれ、およそ三〇年にわたって、チベット亡命政府のあるインドのダラムサラや欧米の一流大学で、科学者との対話を定期的に行っておられます。

 私も二〇〇四年ダラムサラに招かれ、一週間ぶっ通しで対話をしました。

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 一週間の対話の最終日、法王は私を呼ばれて、「こういう会を日本でもやりたい」とおっしゃいました。これまでの対話が西洋の科学者中心であったため、東洋の科学者との対話を行うことを強く望んでおられたのです。

 そして私の手を握って、「日本は二一世紀には非常に大切な国になります。日本の出番がきますよ」と言うのです。

 なぜ日本なのか。日本は、西洋の科学・技術を取り入れて経済大国になりながら、西洋のように自然と敵対するのではなく、むしろ自然を敬い、自然とともに暮らし、周りの人と助け合いながら生きてきた。この日本人の伝統的な調和の精神や文化こそが、混乱と不安に満ちたいまの世界に必要だと法王は言うのです。

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 さて、これからの日本の役割として私が強く感じるのは、人間が本来持っている利他的遺伝子をONにする生き方を伝えることです。

 東日本大震災以降、そしてコロナに悩まされているいま、人のために、世の中のために生きたいと思う人が、これまで以上に増えてきました。多くの日本人の心の中で利他的遺伝子がONになったことで、このような変化が起こったのです。

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 改めて振り返ると、二〇二〇年から二一年にかけて、世界に広がった新型コロナウィルスのパンデミック(感染爆発)は、人類の生存を脅かし、政府や経済・社会、そして私たちの働き方や日常生活まで大きく変えてしまいました。

 この変化は、たとえば場所や時間に縛られない生き方とか、いままで隠されてきたものが明るみに出たとか、世界に大きな分断ができたとか、一人ひとりが意見を発信できるようになったとか、さまざまな分野に及びます。

 全人類に対して「コロナ」の発したこの暗号(メッセージ)を、私たちは冷静に謙虚に読み解いていく必要があると考えて、私はこの本を書いてきました。

 じつはこの変化の兆候は、「コロナ」以前からしばしば指摘されてきていました。

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 その芽生えは、およそ四〇年以上前に科学技術先進国のアメリカで始まりました。「ニューエイジサイエンス」とよばれた一連の知のうねりがそれです。

 一九七〇年代後半に始まったこの動きは、・・・物質と精神(意識)の相互作用を認めるものです。量子力学宇宙論トランスパーソナル心理学などはその代表的な分野といえます。

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 古来、東洋のものの見方は、人間も自然も穏やかに調和し、個人の自我意識も全体の中にうまく溶け込むといった、包括的・全体論的なものでした。仏教思想の世界観・宇宙観を示すとされる「マンダラ」の考え方は、まさにこの東洋的なものの見方の極致でしょう。

 しかし、西洋のものの見方が行き詰まったからといって、すべて否定するわけにはいきません。また、東洋のものの見方が素晴らしいからといって、そればかりに頼るわけにもいきません。私は、西洋と東洋は相対立するものではなく、相補的なもの、つまり「二つで一つ」の関わり合いを持つと考えています。

 全体論還元論の両方のものの見方が持てたとき、部分も全体も、高度な繋がり合いの関係にあることが見えてくるのではないでしょうか。

 科学技術があまりにも進歩したため、現代人は何事も合理的に考えるのは得意になりましたが、合理を超えるもの、目に見えない力を感じとるのは不得手になってしまいました。

 この世は、合理的なものと合理を超えるもの、目に見えるものと見えないもので成り立っていますから、合理だけに目を向けていると、一部しか見えていないことになります。

 合理を超えるものとは、非合理なもののことではなく、現在の常識や科学の力ではいまだ解明されていないもので、〝超合理〟とも呼べるものです。はっきりした形を持った部分ばかりを見ていると、部分と部分の繋がり合いや全体像が見えなくなります。

 こうした「繋がり」に目を向け、〝超合理〟の世界にも踏み入ろうとしているのが現代であるといえます。西洋と東洋が手を携え、ともに新しい文明像を模索していこうという兆しが感じられます。・・・