ドクター中松さん

ヘンな科学 “イグノーベル賞” 研究40講

 この、ドクター中松さんのお話もびっくりでした。

 

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 2020年9月時点で3626点の発明品があるドクター・中松。あまりにとてつもない数だったから、「どうやったらそんなに発明する物を思いつけるのですかあ~?」と無邪気に聞いてみた。

 ドクター・中松には、独自の発明フィロソフィーがある。いわく、「発明は発想ではない。理論である」。発明はひらめきから生まれると思われがちだが、そうではない、ということだ。ドクター・中松が言うには、ひらめくよりも先に、論理的に考えて課題を見出すことがマスト。そして最終的には社会で広く活用される形に作りあげないと、発明品として不合格なのだ。

「じゃあ先生、潜在ニーズを探し出して市場を作るマーケティングみたいですね!」と言ったら、それは違うとぴしゃり(ぐすん)。「必要は発明の母」という言葉はドクター・中松からしてみれば間違いである。必要になってからでは遅いのだ。

 発明品を作るには、ずっと先の未来を見据えなければいけない。まず10年先のことを考えて、マーケットをゼロから作り出すつもりで挑まなければいけないのだ。

 というのも、ドクター・中松でさえ発明品の完成までには数年かかるそうだ。形にするまでは早いが、改善のための実験や検証に多くの時間がかかるのだとか。

 数年先の未来だけを考えて発明していては、発明品が世に出る頃には時代遅れになってしまう。発明品を形にする時は、単に今の生活を豊かにするだけではだめだ。様々な業界をひっくり返して、社会全体を良い方向に向かわせるものを作るつもりで考える。自分の金銭的な利益だけを追求してはいけない。

 そうして生まれたものの1つが、フロッピーディスクだった。

 新型コロナウィルスの流行で、売り切れになるほどの人気が出たフェイスシールド「SUPERM.E.N」もそうだ。SARSが流行った頃から「従来のマスクでは不十分だ」と考え発明に取り掛かり、ちょうど完成したところでたまたま新型コロナウィルスが大流行したのだとか。

 ドクター・中松は「発明は一攫千金とか言われるけど、発明の精神は、お金じゃなくて、愛。発明でみんなが幸せになれば、それは僕の喜び」とコメントした。天才は1%のひらめきと99%の努力だというが、本当にそうかもしれない。

 ……と思った矢先、ドクター・中松から衝撃の発言が。夜中にひらめきが次々と浮かんできて、毎晩ほとんど寝られないというのだ。ベッドの横には常にメモが置いてあり、朝になると紙の山ができあがっているのだとか。こうして生まれた大量のアイデアは、試してみる価値のあるものと現実的ではないものに分けていく。それからプロトタイプを形にし、実験や検証を繰り返すのだ。

 やっぱり先生、天才じゃないですか。