異国のことわざ

たぶん一生使わない? 異国のことわざ111 (イースト新書Q)

 たぶん一生使わない?と言われると、気になって手に取りました。

「馬の耳に念仏」が、アフガニスタンでは「ロバにコーランを読む」になるとか、「人事を尽くして天命を待つ」が、トルコでは「ロバをしっかり繋げ、後はアッラーに任せよ」になるとか、「棚からぼた餅」が、インドネシアでは「落ちてくるドリアンを手に入れる」になるとか、面白かったです(笑)。

 

P76

 ことわざは世界中の言語にある。個別の言語に特有なことわざがある一方で、同じような言い回しのものがあることから、ことわざは世界の共通語との見方もされている。ここでは日本の「朱に交われば赤くなる」と同義のことわざが世界でどのように表現されているか調べてみることにしたい。・・・

 まず「犬と眠ってノミといっしょに起きる(英語)」「犬小屋で眠る者はノミにまみれて起きる(ポーランド)」や、これとほとんど同じものがもっとも多い。ヨーロッパ全域に広く見られ、なんと17例もあり、同義のもののなかでも全体のほとんどを占める。・・・

「腐ったリンゴ1個でリンゴの山を腐らせるに充分(フランス)」など、リンゴの例は東西ヨーロッパの7例とメキシコを合わせて8例あり、2番目に多い。

 3番目が、「狼に付きあえば吠え方も教わる(スペイン)」のように、狼が用いられたもの。西北ヨーロッパと中米を合わせて7例ある。

「鍋にさわればすすで手が汚れる(フィリピン)」「土鍋に近づけば黒くなりやすい(チベット)」のように鍋の例はアジア圏にだけ見られ4例ある。

「朱に近づくものは赤くなり墨に近づくものは黒くなる(中国)」は、日本のものの元になったことわざでもあり「朱に交われば赤くなり、藍に交われば青くなる(チベット)」のような朱や墨の顔料・染料などを用いた例が東アジアに3例ある。

 この他に動物では、牛、ヤギ、ラバ、ロバ、ライオン、虎。鳥では白鳥、カラス、サギ、ワタリガラス。植物では麻、ブドウ、ウリ、ココナッツ。さらに金や鉄、なかには暖炉とか粉ひき所などの例もある。もちろん、善人悪人、病人、猟師、鍛冶屋、なめし皮屋もあれば会話、交わりといった抽象的なものもありじつに多様だ。たとえの総数は85例に及び、一字一句が同じではなく、地域的な特色などを踏まえた表現が文字どおり世界中に見られる。なかでもユニークな例として「池の中で夜を過ごせば蛙のいとこになって目覚める(アラビア語)」を、締めくくりに挙げておきたい。

 

P84

 オオカミとトナカイは同じ群れにはいない

 シベリア・ヤクート族

 

 トナカイはシカ科の動物。北極地帯を中心に棲息し、ユーラシア大陸北部からロシア、シベリア地帯では家畜として飼育される。人類がもっとも古くに家畜化した動物とされる。・・・

 トナカイの天敵はオオカミだから、一緒に行動することはない。ことわざの意味は、同じような性格のものは集まるということ。日本の「類は友を呼ぶ」にあたる。

 この意のことわざは世界中にあるが、地域によっていろいろに表現されている。「セミセミが、アリはアリが愛おしい(古代ギリシャ)」「ザリガニは蟹に味方する(韓国)」「羊は羊の群れ、山羊は山羊の群れ(ネパール)」「鳩は鳩どうし、鷹は鷹どうし(ペルシア語)」「サイ鳥にはサイ鳥、スズメにはスズメ(インドネシア)」「カラスはカラスの脇にとまり、類は類を求める(チェコ)」「鯉は鯉を呼び、スッポンはスッポンを呼ぶ(中国)」などがある。

 

P160

 旨いものには耳が揺れる

 ケニア・キクユ族

 

 美味しい物を食べると感嘆のあまり体がのけぞり、耳たぶにつけたイヤリングが揺れることを指す。

 キクユ族のイヤリングには、長いもので5センチくらいの紐の輪がぶら下がるものがあり、傍目ではイヤリングが耳の一部となって揺れているように見えるという。

 日本のもので言えば「頬が落ちる」「ほっぺが落ちる」「頬っぺたが落ちるよう」などに相当する。・・・古くは「頤が落ちる」「あごが落ちる」と言っていたものの、こちらも今は見聞きしなくなっている。