ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領

ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領 (角川文庫)

 以前、伝記的な本は読みましたが、この本には、政治的にどのように動いていたのかなどが詳しく載っていて、改めて稀有な方だなと思いました。

 

P39

 一九八五年三月の終わり、ムヒカは出獄し、数日後にはもう活発に政治に参加していた。・・・

 ・・・一九八五年に行った初の大演説の聴衆は、モンテビデオのプラテンセ・パティン・クラブに集まった、熱狂した若き闘士たちだった。十年以上もの間沈黙を余儀なくされた後だったにもかかわらず、ムヒカは報復についても、政府を武力で攻撃することについても一切触れなかった。許すこと、そして過去を乗り越えることの重要性を説き、異なる意見に対してオープンであることの必要性、これから左派が担っていくべき新しい役割について語り、その後来るべき一切合財の前触れとなる発言をした。

「私は、我々の痛みや苦しみを嘆くために、今日ここにやって来たのではない。ここにやって来たのは、生き残っている古い人間たちには、ミツバチの巣をつくるためには小枝がいるが、重要なのはその技ではなく、ミツバチの群れだということがわかっていると伝えるためだ」

「私は、獄中での孤立無援の状態を経験したからこそ、わずかなものしか持っていなくても幸せになれることを学んだ。その状態でなんとかやり遂げることができなければ、どんな状態でもやり遂げられない」

「私は、たとえそれが私たちにひどい仕打ちを与えた人々に対するものであっても、憎しみという道を選択する人には賛同できない。憎しみは建設的な感情ではないからだ。扇動しようとしているわけでもなければ、責任逃れをしたり、良い顔をしようとしているわけでもない。これだけは決して譲ることのできない私の信条なのだ」

 

P126

 ・・・ムヒカは・・・無政府主義を主張することはやめなかった。

無政府主義について話しましょう。無政府主義者でありながら国家元首でもあるのは難しくはないですか?あまり理解してもらえないのではないでしょうか」

「それは、瞬間的な、歴史的な時間の問題だ。私は、昔から無政府主義者だ。一番効果的な国家改革は、国家をなくすことだ。問題は、私たち人間が国家なしでは生きられないということだ。これは私たちの短所の表れだ。人類の歴史の九割には、国家は存在しなかったのだがね。国家が存在するということは、社会に階級が存在していることの証明だ。一部の人間が他の人間を支配するようになると登場する。防衛大臣や内務大臣、外務大臣が任命されると政府ができる。政府が最初にやるのが、まずこういうポジションを決めて、国民をコントロールすることだ。経済大臣でも教育大臣でもないんだ」

 

P140

「膨大な数の本を読み、色々な人と話をした結果、私はある結論に辿り着いた。人間は群れをなす、社会的な生き物なんだ。・・・

 ・・・一番難しいのは、人間が自らの主になることだが、それは可能だと思う。選挙キャンペーンで、クン・サンというあるアフリカの先住民の村について話をした(訳注:カラハリ砂漠に住むサン族のことと思われる。北部の住民はクンとも呼ばれる)。そこでは、土地の私的所有が認められておらず、住民は一日に長時間働いたりもしない。色々言われたが、私はとにかくそのことについて話し続けた。極端な例を出すことで、人間もこれまでとは違う暮らし方ができるということを示したかったんだよ」

 ・・・

「人類の歴史は、今起こっていることよりも長い。人間を個人主義や資本主義にしたものは一体何なのか?ここ数世紀で何が起こったか。技術の発展、さらなる知識の追求、植民地形成の野望。人間は一定の条件の下で生きる生き物なんだ。歴史によって人間はある形になったが、今はまた違う。人間は本質的な社会的な生き物で、時とともにエゴイストで野心的になる。これが、現代の人間が抱える不安なのだと思う」