やっぱりこのおばあちゃんの言葉は味わい深いなぁと思いました。
P197
超貧乏な家に育ち、裕福な家、お金持の家とはほとんどつきあいのなかった俺だったので、配達に行くようになって、お金持は日頃の買物にほとんどお金を使わないものだと初めて知った。
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というのは、お金持はお中元やお歳暮で酒や調味料は山ほどもらうので、そんなものは買う必要がなく、買わなければならないのは毎日のちょっとした食材くらいのものだったのだ。
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金持に驚いた俺は、さっそくばあちゃんに電話をした。
するとばあちゃんは言った。
「そうだろう、昭広。貧乏人には金持の気持はわからん。また、金持には貧乏人の気持はわからん。わからんものはわからんままでいいんじゃ。貧乏人が金持の気持がわかると、自分が辛い。金持が貧乏人の気持がわかると、申し訳なくて金持をやってられん。わからんものはわからんままでいいんじゃ」
P215
東京に行ってみたい、都会に出てみたいと思った俺は、そのためにもうちょっとお金を貯めなくてはならないと思い、しばらくにいちゃんの会社でアルバイトをすることにした。
佐賀のばあちゃんにも電話をした。
俺が藤木商店をやめたことを言うと、ばあちゃんは、
「もうやめたんか。やめたんなら、しかたがないな。次の仕事をめざしてがんばれ」
と言った。
「人生は死ぬまでのひまつぶしだぞ。また何か仕事を見つけて、がんばれ。いろんな仕事をして死ぬまでひまをつぶせ。仕事はいいぞ。お金ももらえる最高のひまつぶしばい」
P222
「ばあちゃん、おれ、しばらくどこかに行こうかと思ってるんよ」
「ああ、それもええじゃろう。……行くんだったら東がええな」
ああ、やっぱりばあちゃんだなと俺は思った。
「やっぱり。おれみたいなバカでも東に行けば何とかなるということか。ちっちゃい頃からばあちゃんは言ってたもんね。成績なんかどうでもいいって。英語ができんかったら、『私は日本人です』と書いとけ、漢字ができんかったら、『ぼくはひらがなとカタカナで生きていきます』と書いとけ、歴史ができんかったら、『ぼくは過去にはこだわりません』と書いとけって」
すると、ばあちゃんは大笑いしながら言った。
「おまえ、そんなこと本気で信じとったんか」
「えっ!」