やさしいお話

がばいばあちゃん 佐賀から広島へ めざせ甲子園 (集英社文庫)

 がばいばあちゃんシリーズ、まだ読んでなかったのを見つけて読みました。

 ここは、高校卒業後に八百屋さんで働いていた時のお話で、こういう関係、素晴らしいなぁと思ったところです。

(文庫ではなく単行本で読んだので、ページ数はズレています)

 

P192

「おーい、アキやん。精が出るねえ。一服してお茶でも飲んでいかんか」

 配達は俺の重要な仕事の一つで、配達のお客さんは約百軒。そのうち、注文のあるお客さんは一日およそ六十軒。

 藤木商店は八百屋と酒屋を同時に営んでいて、注文の品は野菜と塩乾物と調味料と酒。

 それをライトバンで俺は配達して回るのだが、車を停めて、野菜の入った段ボール箱を運んでいると、お客さんがいろいろと声をかけてくれる。

「おーい、アキやん。そば食っていってくれよ」

 と行くたびに奥から俺を呼ぶ人もいる。

 その人は配達に行くたびにそばをごちそうしてくれて、最初は「いや、すいませんねえ。いただきます」と俺は食べていた。行くたびに、そば、そば、そばなので、『本当にそばが好きな家だなあ』と俺は思っていたのだ。

 だが、その人は実は薬研堀のそば屋の大将で、店に出すそばを自宅で打っていて、その出来具合を俺で試しているのだ。

「おーい、アキやん。疲れてないか。疲れてたら、注射打ったるで」

 と言うのは三丁目の内科医院の先生方だ。

 先生は冗談のきつい人だ。風邪を引いて注射を打ってもらうと、先生はにこにこと笑いながら患者にこう言うのだ。

「サービスでもう一本どうや」

 配達を頼むのは裕福な家かお年寄り。

 ・・・

 お年寄りはたいていがおばあさんの一人暮らしか、おじいさんとおばあさんの二人暮らし。そんな家が十軒ほどあったが、配達、御用聞きに行くと一番喜んでくれた。

 白菜を半玉、キャベツを半玉、こんにゃく一丁にささがきごぼう。注文の量はしれているが、大切なお客さんであることに変わりはなかった。

 俺はネギや豆腐を買ってもらう代わりに、いろいろと用事をしてあげた。

 肉屋から肉を買ってきてあげたり、クリーニング屋に毛布を出してあげたり、お医者さんから薬をもらって来てあげたり。また、部屋のタンスを動かしてあげたり、肩をもんであげたり……。

 薬をもらいにお医者さんを三か所回ったり、おじいさんとおばあさんを車に乗せてマッサージに連れて行って、それから配達に行って、マッサージが終わった頃に迎えに行ったり、留守番をしたり、グチを聞いてあげたり、庭の枝切りをしたりと、用事はたくさんあった。

 そして、今日はおじいさんの命日なので、花を入れ替えにそこのお寺に行って来るので、ニ十分ほど留守番をしていてほしいと言われて、四十分待っても、五十分待っても帰って来なかったり、東京に行っている息子がもう五年も帰って来ないと延々グチを聞かされたりして、配達はなかなかはかどらなかった。

 なので、店では「おまえ、一回配達に行ったら、えらい長いなあ」とよく言われた。

 それでも、お年寄りがそうして俺に買い物や用事を頼むのは、外に出るのが大変だからだが、そんなことを俺に頼むのは藤木商店が町の人々に愛されているからこそだし、それが本当のサービスなのだと俺は思っていた。

 それに、ばあちゃんに育ててもらった俺としては、おばあさんやおじいさんが困っていたら、自分の気持ちとしていつも何かしてあげたかった。