失敗は成功のもと

脳はすこぶる快楽主義 パテカトルの万脳薬

 なるほど、失敗経験が多いことほど、最適な判断ができるようになったり、上達したり・・・スポーツ選手でも、最初からできた人より、初めは上手にできなかった人がすごく伸びたという話はよく聞きます。

 

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 脳研究者は、色々な動物の脳を研究対象とします。とくに哺乳類であるネズミは格好の対象です。小型ながら、ヒトを彷彿とさせる高度な知的行動を示すからです。私たちの研究室が最近発表したネズミの実験を紹介しましょう。

 ・・・私たちはゴールに到達できる経路が多数ある迷路をつくり、さらに迷路の一部をときおり閉鎖・再開放するなど、より自然に近い環境でのネズミの行動を詳細に解析しました。

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 この迷路の中で何日もネズミを訓練すると、最終的にどのルートを取るようになるでしょうか。最初のうちは袋小路に入ってしまったり、同じ道を何度も戻ったりと、失敗を重ねましたが、最終的にはすべてのネズミが「最短」の経路を選びました。ヒトと同様、ネズミも近道を好むようです。

 この学習過程を見ていると、幾つかのポイントが見えてきます。まずネズミは幾多の選択肢を均等に吟味することはありません。むしろ、たくさんの選択肢から一気に二つのルートに絞り込み、二者択一というシンプルな課題に置き換えて、迷路を解いていったのです。・・・これはヒトでも同じです。たとえば服を買う時に、最終的に二つの候補に絞り込んでから、「どちらにしようか」と決断することは珍しくありません。

 また、ネズミには個体差もありました。・・・成績の個体差を生み出す要因は何でしょう。・・・辿り着いた結論は、実にシンプルでした。

 迷路に入れられた最初の1,2日でどれだけ多く失敗したか、つまり、学習の初期に「どれほど無駄なルートを通ってしまったか」が決め手だったのです。初期に失敗が多いネズミほど、最終的には優れた成績を残しました。また、あちらこちらに回り道してしまったネズミは、その後、最短経路が通行止めになっても、速やかに次善の最短経路を見いだすなど、柔軟性が高いこともわかりました。

 発明王トーマス・エジソンの言葉が胸に響きます。

「私は一度も失敗したことがない。何万通りものうまくいかない方法を発見しただけだ」