アジア未知動物紀行

アジア未知動物紀行 ベトナム・奄美・アフガニスタン (講談社文庫)

 高野秀行さんの本、あ、まだこれ読んでなかった、と発見しました。

 今回も面白かったです。

 未知動物探索もさることながら、今この世界に生きていて、でも知らないところにいる人の話を聞けるのがうれしいです。

 こちらはベトナムでガイドをしてくれたフンさんのお話です。

 

P102

 ・・・フンさんはバナ族出身者のアニミズム的な部分とインテリのベトナム人としての知的な部分を合わせもっているので彼の話自体がおもしろい。

 なかでも、一般のベトナム人(キン族)とバナ族の人のどちらが好きかという、荒っぽい質問を意外にも正面から受け止めた答えは印象的であった。

 彼は言う。

「私は半分ベトナム人だけど、半分はバナ族だ。どちらもいいところとそうでないところがある。だけど、やっぱりシンプルなマイノリティの方が安心するかな。ベトナム人も親切なんだが、それにはいちいち意味があるんだ。例えば、お腹を空かせた人にご飯をあげる。旅人に宿を与える。そういうとき、ベトナム人は『功徳を積む』とか『仏教の教えだ』とか『困った人には親切にするのが人のあるべき姿だ』とか、いろいろ理屈がある。

 でも、少数民族はそんなことを考えない。お腹が空いている人にご飯を出したり、旅人を泊めてやったりなんて当たり前だから、そこに意味なんか何もない。そういうところがいいんだ」

 そう言って、フンさんは焼酎のグラスをくいっと空けた。

 うーん。また私は唸ってしまった。