アニミズム

創造&老年 横尾忠則と9人の生涯現役クリエーターによる対談集

 

こちらは金子兜太さんとのお話です。

 

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横尾 僕のことをちょっとお話ししてもよろしいですか。このところずっと体調を崩していたこともあり、あまり絵が描けなかったんですが、体調を崩しているから絵が描けないんだと決めつけていたんですね。

 ところが、「こんなことを続けているといつになったら、体調が戻って絵が描けるようになるのかわからない、このままだともう描けないかもしれない」と、あるとき気持ちを、積極的に描こうと切り替えたんです。そうしたら、それまで何ヵ月間も鬱陶しくて、憂鬱で描けないと思っていた気分が、たった一日描いただけで一気に身体が活性化しました。

 だから描かないとだめ。描くと元気になる。僕の主治医はどうも「描くこと」なんじゃないかと思いました。絵を描くことで健康的でいられる。

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金子 横尾さんの場合は、普通の命とは違う命で生きているような気がしてなりません。おそらく、芸術の仕事との触れ合いという瞬間が、普通の人とは違うと思います。

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横尾 僕は自分で解説はしたくないんですけど、僕の性格は優柔不断で、積極的に自分から前に出るタイプではない。どちらかというと面倒くさがりで、常に受け身のタイプなんですね。

 僕は生まれてすぐに、横尾家に養子に出されて、一人っ子だから、横尾の両親に溺愛されて、ある意味ではわがままに育ちました。何もかも全部両親がやってくれました。そこで、そのままずっと来てしまったので、自分で意欲的に何かモノを創ろうとする自主性がなくて、向こうからやって来たものを受け入れて、ただそれをやるだけと、そういう生き方をしてきました。

金子 その感じです。あなたには、そういう空気を非常に感じるなぁ。

横尾 私はいつも来るものを受け入れて、これはやったほうがいいとかやらないほうがいいとか、そういうことはよくわかりませんよね。そういう時はなりゆきに任せるタイプで、あまり考えないんです。それは未だにそうなんです。

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金子 なるほど。だからあなたが描いているものが面白いんですかね。

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横尾 僕には先生がいないので、自分で工夫しながらやっていくしかなかったんです。それにはものすごく時間がかかって。だから僕は物事が完成しないんです。完成して達成感を得ることにあまり興味がない。それよりも過程に興味があるんです。結果はどうでもいい。結果は批判されてもいい。やっている過程が面白いということだけですね。だから僕の具合が悪いときはわかりやすいんです。やりたくない仕事を頼まれているときに具合が悪くなるんですね(笑)。

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 金子さんはご本の中でアニミズムということをおっしゃっていますが、僕はそれにすごく共感します。

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 健康のエネルギーはどこから来てるのかというと、現実には現世から来ているというより、金子さんの言葉を使うと他界から届いている。他界から送られてきたエネルギーによって現世に生かされている。そのエネルギーがアニミズム。宇宙や自然のそのへんにあるものぐらいに考えています。

 でも、あまりそれにこだわったり、特別視するとつまらなくなりますから。

金子 アニミズムということに注目しすぎると絶対つまらなくなります。

 私は、本来横尾さんはアニミストではないかと思っていました。それを自覚しているのかな、どうも自覚していないのではないかと思っていて、するとこれは本当のアニミズムだと思うんですね。

 いわゆるアニミストの人は、ほとんどがそれを自覚していますね、するとそれは本当のアニミズムではないと思うんですね。ニセと言ったら失礼だけれど、正真正銘のアニミズムではない。私は中間型ですね。横尾さんほど徹底していない。

横尾 うーん。どうなんでしょうか。でも公園にボーッとしているとトンボがたくさん飛んできて、そのうちの一匹に「こっちにいらっしゃい」というふうに心の中で呼びかけると本当にやってきて、一匹のトンボと一時間遊んだことがあります。

金子 それは俺にはできないなぁ。

横尾 それはたまたまそういうとぼけたトンボがいたんじゃないかと思うんです。

 実は、去年大事にかわいがっていた猫が死んだんです。それで、今は新しくきた猫がいるんですけれども、その猫が時々亡くなった猫と同じしぐさをするんですね。そういうときは、今の猫を通して昔いた猫に話しかけているのかなと思います。

 これも広い意味でのアニミズムになるのかな。