瀬戸内寂聴さん

寂聴 九十七歳の遺言 (朝日新書)

 瀬戸内寂聴さんのエッセイを読みました。

 97歳でこの気力、やっぱりすごいです。肉を食べなきゃと言われても、私は苦手なので食べられませんが(笑)

 

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 大切なことは、「ほんとは自分が何をやりたいか」ということを考えることです。そして、そのほんとにやりたいことをやったら、自分が幸せになるだけでなく、自分以外の誰かを幸せにするかどうか。そこを考えてください。

 誰かの幸せのために自分のやりたいことをやっていたら、一時の失敗とか結果はあまり気にならなくなると思います。

 いつ何が起こるかわかりません。だからこそ自分のしたいことをした方がいいのです。

 私はちょうど六十歳の時に急に体調が悪くなったことがありました。当時、寂庵には看護婦をしていたいとこがいました。彼女が「すぐお医者さんに行きましょう」と、お腹を診ることでは東京でも一、二というお医者さんに連れて行ってくれた。いろいろ診てもらったら、結局「腸が悪い」とのこと。

「あなたはもう仕事しちゃいけません、講演なんか絶対しちゃいけません、家でじっとしていなさい」といわれたんです。

 びっくりして、「私は毎日、何をするんですか」と聞いたら、「六十歳の老人らしく庭の草むしりでもしなさい」って。

 困ったなと思いました。私は草むしりなんか好きじゃないし、当時はまだ寂庵にちゃんとした庭もありませんでした。

 お医者さんは何々しちゃいけない、何々を食べちゃいけない、これを飲みなさいと、山のように処方箋を出してくれました。でも、私はそれを全部やらなかった。どうせ死ぬなら好きな物を食べて、どんどん仕事をしてやれと思って、仕事も倍に増やしました。そうしたらいつの間にか治ったのです。

 そして二、三年したら、そのお医者さんの方が死んでいました。人の命なんて案外そんなものなのでしょう。

 命は与えられたものなので、思いどおりになりません。だからこそ生きている間、大切にしなければいけないと思います。

 私の健康法はとてもシンプルです。

 第一に好きなことをすること。次によく眠ること。そして肉を食べること。肉を食べないと頭が悪くなります。肉を食べているとボケないから、少しでもいいから何の肉でもいいから食べて下さい。

 よく野菜を食べろとかカロリーがどうとか言いますが、そんなことは信じなくていいのよ。好きなものを食べたら体が一番喜びます。

 それから私は毎朝、ぬるいお風呂に十分くらい入ります。体を洗ったりしないでただゆっくりお湯に浸かる。この朝風呂がとてもいいようです。