読み始めて、あれ?読んだことある気が・・・と思ったら、やっぱり以前読んでました(笑)。でももう一度読んでよかったです。
こちらは瀬戸内寂聴さんとの対談です。
P10
横尾 ・・・ここ数年は大変でしたよね、まず、一番最初に倒れられたのは?
瀬戸内 八十八歳のときに。
横尾 じゃあ、五年前。
瀬戸内 そう。そのときに圧迫骨折になったの。圧迫骨折ってね、背骨が折れるんですよ。でも気づかないで、普通に過ごしていたら痛くて痛くて……。
・・・
ホテルで荷造りをしていたの。そしたら、腰がねギクッと音をたてて痛くなった。はじめはぎっくり腰かなと思ったんですよ。・・・
・・・
・・・原因はわからなし、痛いし、そのまま寝込んだの。
そしたらね、「寝込んだ」という話が広まると全国から拝み屋さんとか名医とか、とにかくいろんな人が来て、「私に治させて」って来るの。そんなのいちいち会って診てもらってたら、お金払うのも大変なのよ。だから、横尾さんも覚えておいたほうがいいわよ。気をつけなさい。
横尾 それは、大変だなぁ。でも僕のところには来ませんよ。
瀬戸内 そのなかでね、知り合いの新聞記者さんが、「瀬戸内さん、他はともかく、この先生にだけは何がどうしても診てもらってください」って言うの。
その人が「どうしてもこの先生に会ってほしい」と、何度も言うから、その先生に会ってみたの。そしたら、その先生、私の顔を見ただけで、「あなたは圧迫骨折です」って言う。「圧迫骨折てなんですか?」って聞いたら、「年とって、背骨が弱まって折れてしまうんです」って。
そのままMRIに入って、診てもらったら、やっぱり圧迫骨折だったということがわかったの。
それでね、「これは誰でも年とったらなるんです」って。・・・
・・・
横尾 大変でしたねぇ。じゃあ、第一回の圧迫骨折が八十八歳で、その次は?
瀬戸内 その後はずっと元気だった。でも去年、九十二歳になったばかりの五月に、急に腰が痛くなって、また歩けなくなってしまった。
・・・
今は、腰を動かしたら痛いけれど、歩けないことはない。
今日なんて、あわてて杖を忘れるくらいだから、けっこう元気なのね(笑)。
・・・
横尾 ・・・僕が驚くのは、瀬戸内さん、九十三歳じゃないですか?普通ならば、八十八歳で圧迫骨折になって寝たきりになったら、それでもう終わりだと思います。
瀬戸内さんの、この長生きの原因はなんだろうと思うと、やっぱり創作、小説を書くということにあるんじゃないかと。・・・
・・・
横尾 圧迫骨折のあと、昨年は癌の手術も受けられましたね?
瀬戸内 なんだかわからない痛みがずっとあって、いろんな検査をしたの。・・・
痛みの原因がわからないまま、もう仕方ないから退院しようとしていたら、若いお医者さんが来て、胆のうに癌があると言われました。
・・・
若いお医者さんがね、ちらと「悪性です」って言ったの。その後、偉いお医者さんが来て、その人は「悪性」なんて絶対言わない。
でも、その偉いお医者さんが「どうしますか?」って聞いた。
それで、私はなんの躊躇もなく「すぐ取ってください」って言ったの。
私は、癌なんて大人のにきびみたいなもので、誰にでもできると思っていた。
ドクターのほうは、九十二のばあさんが手術なんてしないと思っていたかもしれないけれど、私があんまりあっさり「手術して」と言ったものだから、そのお医者さんもすぐにこにこして、「じゃあ取りましょう」と。
それでね、あとで聞いたら、その人は癌の手術の名人だった。
手術もなーんにもこわくなかったけれど、全身麻酔はちょっと困るなぁと思っていました。というのも、全身麻酔ってね、かかるときはいいけれど、解けるときに「言ってはいけないこと」を言ってしまうらしいのね。それは困るなぁと思ったけれど、看護婦さんしか聞いてないからまあいいかと(笑)。
・・・
・・・横尾さん、全身麻酔したことある?
横尾 ありませんよ!手術もしないのに。
瀬戸内 してごらんよ!すうっとね、記憶が薄れていくの。もう、あんな気持ちいいものとは思わなかった!
横尾 じゃ、死んでもよかったんじゃないですか?(笑)
瀬戸内 そうよ!こんなに気持ちいいなら、もうこのまま死んでもいいなと思ったの。全身麻酔って、本当に気持ちいいのよ。解けるときも本当に気持ちいいのよ。・・・
・・・
横尾 瀬戸内さんの、そういう楽観的でポジティブな性格が、癌を退治したり回復を早めたりしたんでしょうね。
・・・
瀬戸内 私は自分が九十三歳だなんて、本当に信じられない!
「お年は?」って聞かれて、七十いくつとか、ひどいときは二十いくつってつい、言ってしまって。秘書に「またこんなにサバ読んで!」って怒られるの(笑)。
でも本当にそう思うのよ。
・・・
横尾 それにしても、瀬戸内さんは病気のことでも楽しそうに話されるので、楽しい病気っていうか嬉しい病気っていう(笑)。
瀬戸内 でも、苦しいよねぇ。病気つらかったわよ。
・・・
お風呂も好きだけど痛いから入りたくないし、何も食べたくないし何も欲しくないときもあった。何も楽しみがなかった。
・・・
横尾 それがここまで良く治りましたね。治ったのは、リハビリのお陰ですか?
瀬戸内 そうね。リハビリだから、マッサージではなくて体操をするの。先生が来て、いろいろ体操するのよ。
私、昔から体操得意だったのよ、今でも得意。足なんてぱぁーと上がるのよ。だからみなさんびっくりするのよ。九十過ぎて、こんなことできる人いませんよ!って。
だから面白くて、何でもしてみせるの。ふっ、ふっ、て!なんでもやってみせるのよ。
横尾 じゃあ、遊びながら、病気も治っていったんですね。
瀬戸内 そうね。筋肉をつけることで、痛みが減っていったみたい。
・・・
横尾 瀬戸内さんの性格のいいのは「こだわらないこと」と、やっぱり「遊んじゃうところ」ね。
瀬戸内 そうね、面白がっているのね。