また高野秀行さんの本を読みました。
毎回知らない世界が広がっていて面白いです。
今ちょうど梅雨ですが、地域によっては「雨」がすごい大きなことなんだなーと印象的でした。
P170
名目上の新年、伝統的な新年の他に、タイではもう一つ、新年ではないが、新年以上に年の変わり目を感じさせる時期がある。
六月だ。私は大学で日本語講師をしていたからよく実感できるが、六月の第二週から新しい学年が始まる。これは小、中、高もほぼ同じだ。
どうして学校が六月開始なのか。これはひじょうにわかりやすい。
タイ―そしてインド周辺と東南アジアのモンスーン気候帯―では、十月頃から乾季が始まる。二月くらいまでは涼しいが、三月から猛然と暑くなり、四月、五月はたまらないほどの暑さだ。
とても勉強などやってられないので、三月から五月までは長い夏休みとなる。そして、これだけ休みが長いと、それまで勉強してきたことも忘れてしまうから、そこを学年の区切りとするわけだ。
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しかし、それだけではない。というより順序が逆と言ったほうがいいかもしれない。
雨季に入るというのが、そもそも一年における最大の区切りなのである。三月~五月の「暑季」は乾燥と猛暑で草木が枯れるほどだ。・・・タイ(そしてモンスーン気候帯のたいていの地域)では、この時期が「冬」という感覚なのだ。
雨が降り出すと、農民は喜び、野菜の種を蒔き、田植えを始める。草が芽吹き樹木の葉は青々と色づき、まさに生きとし生けるものがみな息を吹き返す。・・・こちらはまさに「春」の訪れだ。
私のような外国人でさえ、半年も降らなかった雨が忽然と降り始め、あの目眩がするような暑さから解放されると、心底ホッとすると同時に、「これでなんとか一年を無事に過ごしたのだな」という感慨にも浸る。・・・
同じ気候帯に属するインドのヒンディー語では年齢のことを「雨」とダイレクトに言うことがある。例えば二十五歳なら「二十五雨」と言うのだ。そういえば、アフリカ・コンゴのリンガラ語も、「年」と「年齢」と「雨」と「雨季」がすべて同じ単語だった。二年前のことを「二雨前」などと言う。熱帯の多くは乾季と雨季がはっきりしており、しかもどこも雨が降ると一年の農作業が始まるから、それが庶民の暦となったのだろう。・・・