家族

愛と家族を探して

 こんなに柔軟な考え方はしたことがなかったなと思いました。

 

P110

 同性の友達とはどうして家族になれないのだろうと素朴な疑問を抱いてきた。・・・結婚制度は子どもを持つことを想定してつくられた制度だから、というのは容易に想像できるけれど、だとしてもそれ以外に家族になる方法が全くないのは時代にそぐわないし不自由だと感じる。・・・

 ・・・

 ・・・劇作家の女性二人の家族・・・彼女たちは恋愛関係にはないけれど、お互いを家族的な存在だと思っていて、同性パートナーシップ制度を利用して養子をもらうのもいいねなどと話していると言っていた。・・・

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―お二人が一緒に住むようになったきっかけは何だったんでしょうか?

 

オノマ 兄夫婦が仕事の関係でイギリスに一年間駐在することになって、その間に一軒家に住んでいいよと言われたことがきっかけでした。広い家での一人暮らしは持て余してしまうので、ワカヌさんを誘って一緒に住み始めた感じです。

 でも、その前から一緒に住む話は出てたよね?

 

ワカヌ そうだね。リコさんはよくうちにも泊まりにきてくれていて、一緒に住めたらいいよねとお互いに言っていた気がする。

 

オノマ ・・・もともと仲の良い友達で、お互いに劇作家になる前に知り合っていたのも大きいかも。

 

―でも、同年代の劇作家だからといって一緒に住みたいという気持ちにはならないですよね?どうやって信頼を築いていったのでしょうか?

 

オノマ 劇作家としてデビューした日が近かったんですよね。だから、お互いの作品を観に行ったり、演出助手として同じ現場で働いたりしたこともあったからかな。

 

ワカヌ 私が覚えているのは、リコさんに誘ってもらって文楽に行ったことがあったでしょ?「チケットもらったから行きませんか?」って。私、開始五分から最後まで大爆睡してしまったんですよ。

 私も空気が読めないところがあって、観劇後に喫茶店に入ったときに「すごく気持ちよく寝ちゃった~」って言っちゃったの。そうしたら、「寝るよね~」って言ってくれて、「あ、この人いい人だな」って(笑)。

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オノマ お互いに人見知りなので、少しずつ仲良くなっていった感じだよね。私がワカヌさんのことで印象的だったのは、どの現場でも好かれる人だなっていうことだったな。

 

ワカヌ 人数の多い現場だったから短時間でコーヒーをたくさん淹れなきゃいけなくて、「小さい穴からポトポト出ているのがいけないんだ!」って思って、コーヒーを濾過する部分を外しちゃったのね。そしたら、床がコーヒーの海になっちゃって……。

 

オノマ そのときに、周りが「さすがワカヌさん、あいつまじで面白いな」ってなったんだよね。「コーヒーをこぼしたのに、みんなが沸いてるぞ。この人一体何なんだろう……」って思った(笑)。

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―実際に二人で住んでみて、快適だったところと難しく感じたことがあれば教えていただけますか?

 

オノマ どちらもありますね。スムーズだったのは、部屋に入っちゃうとお互いすごく静かだというところ。いるのかいないのかわからないくらいです。

 ただ、喧嘩まではいかないものの、どうしてもちょっとしたぶつかり合いはありましたね。まあ、ゴミの分別の仕方とかなんだけど(笑)。

 

ワカヌ 共同スペースのインテリアで、私は可愛いものを出しておきたいし、リコさんは使うものを出しておきたいっていう違いはあったかな。

 

オノマ あとは、炊いたお米や鍋物のおかずをシェアするのはいいけど、食べきってはいけないというルールができるきっかけになった事件も起きたよね。

 

―事件、ですか?

 

ワカヌ リコさんがつくったトンポーローがおいしすぎて、炊いてあった白米を私が全部食べてしまったんです。さすがに悪いなと思って、自分で買ってあった玄米を炊いておいたんですよ。そしたらリコさん、すごくショックを受けていたよね。

 

オノマ だって、トンポーローに玄米は合わないもん(笑)。

 でも、そうやって一緒に住みながら少しずつルールのようなものができていった感じかな。ご飯も一緒に食べるときもあるけど、そうでないときもあるし。

 家事の役割分担みたいなことも、私は朝早く起きるのが苦手だから、ゴミ出しをお願いするようになって、何となく決まっていきました。

 ・・・

―一緒に暮らし始めてから決めたルールみたいなものはあるんですか?

 

オノマ 気づいたことがあっても、ワカヌさんに伝えるのは一日一個までにすること。

 私は思いついたことがあるとたくさん言っちゃうんだけど、ある日ワカヌさんから「一度に二個も三個も言われると傷つくからやめて」って言われて、もっともだなと(笑)。

 

ワカヌ 五月雨式に言われると、わけがわかんなくなっちゃうんですよ。

 何かを言うときに「今から言うけど、心理状態は大丈夫?」って、必ずワンクッション置いてから言ってくれるのも助かってる。無理なときは「やわらかめにして」とか「後にして」とか「今ちょっと受け止められない」とか言えるので。

 

―逆に、ワカヌさんがリコさんに対して言うときは?

 

ワカヌ 私も言いたいことがあるとき、相手の調子を見て言おうと思っているんですけど、言う前にリコさんが察してくれることのほうが多くて。

 

オノマ 私が言いたいことをすぐに言っちゃう一方で、ワカヌさんはどちらかというと言いたいことを我慢してくれちゃうから、なるべく気にするようにしています。

 ・・・

―一緒に暮らし始めて二年、仕事やプライベートに何か変化はありましたか?

 

オノマ 同じ職業だから、仕事の悩みを共有できるというのはありますね。プライベートに関しては、ますます結婚を考えなくなったかな(笑)。恋人をつくるのが楽になりました。

 結婚を考えずに堂々と付き合っていいという気分になった、とも言い替えられるかな。それまでも結婚願望自体は強くなかったですし、好きかどうかだけで付き合ってはいたのですが、どうしても「邪な結婚念」のようなものはありました。

 数年前は病気を患って、経済的にも不安があったので、相手への期待が大きくなって、結婚したいわけではないのに「あわよくば楽に生活できるんじゃないか」みたいな気持ちがモワモワモワ~ッと広がっていって(笑)。

 ・・・

 ・・・もちろんこれからもお互いにどうなるかわからないけれど、ワカヌさんという家族ができたことで、付き合うときに結婚向きの人かどうかを考えなくてよくなった。

 逆に、結婚にすごく前向きな人と付き合うのは難しいのかな。まあ、ワカヌさんも誘って一緒に住めばいいんだけど。

 ・・・

―お話を聞いていると、お二人はもう、家族だなと思ったのですが、この関係をどのように捉えているのでしょうか?

 

オノマ 実はワカヌさんとは同居しているだけで、「家族になろう」とかは考えたことがなかったんです。でも、大阪で男性カップルが里親になったというニュースを見てからは、ワカヌさんと同性パートナーとして里親になるのも良いかなと思い始めました。

 ・・・

―同性パートナーシップ制度を申請して、子育てする。でも、お二人は恋愛関係にないですよね?

 

オノマ 恋愛関係にはないです。同性パートナーシップ制度は、そもそも同性カップルのためにつくられたものですが、友達同士で家族になる制度として位置付けてみてもいいんじゃないかなって思ったんです。

 それをワカヌさんに提案して言葉にしたとき、初めて家族になるのかもなと思いました。次の日になって、ふと「あれってプロポーズだったのかな?」と思って、妙に照れちゃったんですけど(笑)。

 

ワカヌ 私も何か照れました(笑)。でも、友達同士で家族をつくるのも全然いいですよね。

 今の時代、「結婚」っていうと、ハードル高く感じる人が増えていると思うのですが、だからといってそういう人たちが全員一人で生きていかなきゃってなるとしんどすぎるじゃないですか。

 

オノマ そうそう。今は結婚か、実家暮らしか、一人暮らしか、っていう選択肢しかない。しかも、結婚する相手を好きにならないといけない、みたいな呪縛がある。

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―ワカヌさんは、リコさんから提案を受けたとき、戸惑いはなかったのでしょうか?

 

ワカヌ なかったですね。リコさんと同居し始めたときもそうでしたが、自分の中のブレーキが作動しなかったので、きっと自分にとって自然なことなんだろうなと思えました。

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 家族って固定観念が特に強い分野だと思うんですけど、自分がどういう家族のあり方を望んでいるのかを知るのが大事だなと思っています。

 リコさんとの生活も「家族をつくろう!」というモチベーションでやっているわけではなくて、自分にとってナチュラルだと思われることに抗わずにきたら今のかたちになっていた、という実感が強いんですよね。

 具体的に何が正解かは人それぞれですけれども、社会や世間がいう「家族」に囚われず、自分がナチュラルに腑に落ちるのはどういう家族なんだろう?っていうのを知って、世間から浮いていたり外れていたりしても否定しないことが大切なんじゃないかなと思います。

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―最後に、お二人にとって家族とはどんなものですか?

 

ワカヌ 私の場合は、血縁とか制度に依存するとは限らないもの、意思を持ってつくって、選んでいくものだと思っています。

 

オノマ 私もつくっていけるものだと思っています。それから、自分にとって安心できる場所、ですかね。