高野秀行さんの「謎モノ」との出会いから今にいたる話、興味の方向性は全然違いますが、共感して読みました。
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私の高校時代は暗かった。
学校の友だちは一緒に麻雀やゲームをやる程度で深い付き合いはなかったし・・・
男子校だったから、女の子とも無縁だった。・・・
そんな悩める高校生を救ったのは文学だった―なんて都合のいい話もなかった。・・・
文学青年にはなれなかったが、文学青年ぶろうとしたのは無駄ではなかった。図書館に通う癖がついたからだ。私の高校は図書館だけは充実していた。普通の高校の図書館にはないような本がたくさんあり、中でも私を惹きつけたのは、文学の棚からは最も遠い「謎モノ」だった。
この世界には科学で解明できないことがたくさんある。例えば、エジプトのピラミッドやナスカの地上絵。誰が何のためにどうやって作ったのかわからない。
メキシコで見つかった水晶でできたドクロは、現代の先端技術をもってしても作ることができないという。アフリカのドゴン族は、肉眼では絶対にわからないシリウスという星の形状を正確に知っていた……。
いったいどういうことなんだろう?不思議で不思議でたまらない。・・・
私は自分でも図書館に希望を出し、「ノアの方舟は宇宙船だった」とか「日本人はムー大陸からやってきた」といった本を仕入れてもらい、片っ端から読みまくった。
何を信じていいのかわからなかったけれど、いちばん不思議で、いちばん私を興奮させたのは、「どんな謎にも何か真実が絶対にある」ということだった。
ナスカの地上絵は誰かがある目的のためにある方法で作ったのだ。ドゴン族はなんらかの方法でシリウスの形状を知ったのだ。それだけは間違いない。
ほんとうのことが知りたい。・・・
かくして私は十七歳のとき、「超考古学者」になることを決意した。・・・
あれから二十年あまりがたった。私は超考古学者にはなっていない。なるわけないよな、そんなもんに。
その代わり、私は別の「謎モノ」を探している。アフリカの密林の中に棲むネッシー型の怪獣「ムベンベ」とか、・・・
その手の怪しい代物を探しに地球の果てまで行き、まじめに調査研究して、本を書くといった仕事をメインに生活している。そんな人間は日本でも、私ひとりだろう。
・・・
妻は呆れ果てているが、私に妻がいること自体がナスカの地上絵以上の驚きだ。
今思うこと。それは高校生のときには想像もできないような未来が人生にはあるということ。でも、高校時代に読んだり考えたりしたことは、何かしら人生に大きな影響をもたらすということである。