縄文時代の働く時間

縄文探検隊の記録 (インターナショナル新書)

縄文時代の物語を書きたい夢枕獏さんが、専門家に話を聞く本の中に、労働時間の話がありました。

一日四時間、そのくらいがちょうどいい。

そんな世界になったらいいなと思います。

 

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夢枕 縄文時代には、いわゆる納税のために働くということはなかったのですよね。

岡村 ないですね。だから飢えなかったともいえる。カロリーを保証したかに見える稲作ですが、中央集権が確立して以降は飢饉の記録が多い。労働を米に投入させてきたので狩猟採集で食の不足を補おうにも、もはや時間的な余裕を捻出できないのです。飢饉を招いたのは冷害だけではありません。時代にもよりますが、権力による厳しい収奪も原因です。

 ・・・

夢枕 縄文時代の平均労働時間は四時間っていわれていましたっけ。

岡村 環境が悪化している現代の狩猟採集民でも、四時間働くだけで楽に暮らせるようです。四時間働けばよかった暮らしが、一万年も続いたのが縄文時代です。

夢枕 理想ですよね。一〇時間以上働いても食えません、将来への希望も持てませんっていう国はおかしいですよね。四時間働けばみんな幸せに生きていける時代にしたいですね。

岡村 ワークシェアで四時間働いた残りの時間を何に振り分けるか。人間の幸せは、そこにあると思いますよ。・・・

夢枕 ・・・もちろん不幸もあったと思います。平和な社会だったといわれますが、人間ですから諍いや小さな階級闘争もあったでしょう。それなりに権力欲のある人もいたはずです。ただ、今よりは幸せだったかなとは思いますね。今、僕らが縄文時代の生活に戻れないのは、弥生以降のシステムに身を置いてしまったからですが、もし縄文時代に生まれていたら、幸福指数はそれなりに高かったかもしれないですよね。・・・

岡村 ・・・不幸が幸福と違うのは、比べるからそう感じるのです。この対談(第八章)は神様から始まりましたが、神様という概念はお互いを比べて優劣をつけないための抑制装置のようなものだと思うのです。

夢枕 本質は感謝ですね。アイヌイヨマンテ(熊送り)も、神様が怖いからではない。ひたすら感謝です。縄文人と神様との関係もたぶん同じで、この世界のいたるところに神というものが存在するという物語を作った。よこしまな感情を封じ、感謝と尊敬を選択したことが一万年に及ぶユートピア社会を作ったのだと思います。

岡村 自然に学んだ価値観や哲学が、縄文人にとっての神だったのではないですか。埋葬を見ても、再生への願いを強く感じます。遺体の頭を北から西方向にきちんとそろえています。天体の動きに連動させているようにも見えます。

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 そこには、神になって自然の中へ旅立ったけれど、また循環して自分たちのもとへ帰ってくるのだという確信のようなものを感じます。人間が生まれて死んでいくことを、冬が来てもまた春が来るようなリズムととらえていて、こうした循環や再生、あるいは甦りを司るのが神だという意識を持っていた。副葬品からもそのことは読み取れます。・・・