粘り強さ

脳科学は人格を変えられるか? (文春文庫)

 

ここは、楽観的な人ほどあきらめないので粘り強いが、粘り強くがんばってしまうとストレスもかかる、楽観的な人ほど健康という説に矛盾が生じるのでは?という話です。

 

P119

 研究チームが発見したもうひとつの興味深い事実は、課題に粘り強く取り組める人はストレスホルモンの値が高く、生理学的覚醒が過剰になりがちなことだ。「楽観は健康をもたらす」という仮説とこれは合致しない。これについては、いったいどう考えればよいのだろう?

 セガストロームは次の調査で、この謎を解くヒントを見つけた。法学部に入学したての第一学年の学生多数について調べたところ、楽観的な学生は概して生理学的なストレス値が高く、免疫系の機能は低いことがあきらかになった。その原因はおそらく、楽観的な学生が複数の目標に同時に取り組もうとすることにあった。法学部の授業は要求度が非常に高く、社交をしたり新しい友人をつくったりすることと、勉強のために長い時間を図書館で過ごすことはなかなか両立しない。楽天家はそのどちらも手を抜かない傾向が非常に高く、そのために消耗しきり、健康上マイナスの結果を招いてしまうのだ。

 だが、弱まった免疫機能は第二学年になるころには回復し、最初に支払った短期的な代価は相殺される。前の年に多くのことに取り組み、いちばんハードな生活を送った学生は、第二学年になると試験の成績だけでなく、友人や仲間との互助的なネットワークなどでも、いちばん多くの成果を得るようになるのだ。短期的な代価は長期的な利益によって埋めあわされ、楽観と健康との一見矛盾した関係も解消される。二〇〇九年に行われたメタ分析―いわば分析の分析―でもやはり、楽観が長期的には肉体的な健康を高めるという強力な結果が得られた。