必要とされること

「病は気から」を科学する

 必要とされることで脳も変わる・・・色々思うところがありました。そして、老年期とは人びとに還元する時期って、そうあれたらみんなにとって何よりだなと思いました。

 

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 歳の取り方についてはすでに学んできた。自己調節、理性的思考、社会的な関係に欠かせない脳の前頭前皮質は、脳の他の部位より速く衰える―孤独な人びと、慢性的にストレスを感じている人びとでは、このプロセスが急速に進み、最終的には認知症になる。メリーランド州ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院の神経科学者ミッシェル・カーソンは、その衰えを遅くする方法を探していた。老人たちは加齢と共に孤立し、片隅へ押しやられ、徐々にコミュニティから切り離されていく。カールソンが考えたのは、逆に彼らを豊かな社会環境に置いたら、何が起こるのかということだった。

 彼女は同僚たちと協力し、イクスペリエンス・コープスというプロジェクトを立ち上げ、高齢者たちに週に十五時間、貧困地区の小学校で、子どもが本を読む手助けをするボランティアをしてもらった。運動プログラムなど、健康のための介入のほとんどは、たとえ週に数分のみであっても落伍者が多い。そのため、十五時間というのは、人に参加を求めるには「かなり非常識な」時間数だった、とカールソンは言う。けれども被験者たちは、その学年度中、ずっと通い続けた。

「あなた方が必要だ、あなた方の知恵と経験が欲しいと訴えたんですよ」と彼女は言う。「老人たちが続けているのは、自分のためではなく、子どもたちが待っているからなんです」

 被験者たちは手助けした子どもたちと親しい関係を築き、カールソンによれば、教師や親でも滅多に起こせない「魔法」を起こした。・・・生徒の多くは生い立ちに問題があるが、高齢の被験者たちには忍耐力と経験があるため、問題行動の裏には家庭の問題があることを見抜きながら、子どもたちが切り抜けていくことを期待していた。「彼らは、他とは違う次元で、子どもとつながることができるんです」

 そのプログラムは子どもたちの成績を大きく向上させただけでなく、被験者の健康状態も向上した。・・・二〇〇九年に発表された予備実験では、一学年度の間に被験者の活動レベルが上昇し、通常は加齢と共に衰えていく脚力も向上した。さらには、認識能力検査の成績も上がり、前頭前皮質の活動も増えた。

 ・・・海馬は普通、年齢と共に萎縮し、アルツハイマー病の初期段階で正常に機能しなくなる。ところが、この被験者たちの場合は拡大していた。脳の年齢に伴うダメージが逆転したのだ。

 こういった結果は、老化に対する考え方を改めるべきことを示していると、カールソンは言う。・・・

 高齢者のケアの仕方を変え、できないことを手助けするのではなく、その能力を活用するようにしたらどうだろう。・・・「老年期とは衰える時期のことだと言われたら、そのメッセージは人にどんな影響を及ぼすのでしょう。でも、老年期とは人びとに還元する時期と言えば、よりよく歳を取れるようになるのかもしれません」