すてきな人がいっぱい

再開です(*^_^*)

イタリア人の働き方 (光文社新書)

内田洋子さんの本を続けて読むうちに行き当たった一冊「イタリア人の働き方」。
すてきな人がいっぱい登場します。

こちらは、40歳の靴磨き職人の女性です。

P26
 実にチャーミングに話してくれる彼女だが、それにしてもこれだけの美貌とスタイル、ホテルマネージャーの経験もある彼女が、なぜいきなり<靴磨き>の道を選んだのか。
「まず、尋常でないほどの靴マニアだった、ということ。誰からも指図を受けたくなかったこと。二〇年前、この界隈には芸能人から実業界VIPまでが懇意にしていた靴磨き界のスターがいたのですが、彼が他界した後、その穴を埋められるような才能ある靴磨きがいなかったこと、などが理由かしら。
 ある日、私と同様に靴好きの男友達といっしょに、ローマの中心に小さな店を出している靴磨き屋へ靴を磨いてもらいに行きました。亡き靴磨き名人の代わりになる人を捜し求めて、私たちは時間ができるとあちこちを試して歩いていました。
 私が靴を磨いてもらっていると、いっしょに行った友人が写真を撮り始めました。
「女性が靴磨きしてもらう、というのは、珍しい風景だから」
 と言いながら。
 その瞬間、私の頭には、自分が靴磨き屋となって男性客の靴を懸命に磨く場面が鮮明に浮かび上がったのです。それで、すぐにそのことを友人に言いました。『靴磨き名人捜しはやめて、私が名人になることにするわ』と。靴好きの人が絶対に信頼してくれるような、達人になってみせる、と決意したのです。
 友人は、『イタリアの靴磨き界で女性はきっと君一人だけだろう。君なら絶対にプリマドンナになれる』と大賛成してくれたのでした。・・・
 開店するなり、商売は非常に繁盛。<靴磨きの名人が再来したらしい、しかも今度は女らしい>という噂が、口コミであっという間に地区内の高級ホテルやバール、ブティック街に伝わりました。・・・大半が、実業家や企業のトップ、名のある芸術家、政治家、俳優などで、懐具合の豊かな人たちでした。・・・そしてその人たちがことあるごとに、私の店をあちこちで褒めてくれる。まるで夢のようでした。そう、私が夢に見るほど捜していた靴磨きの名人に、気付くと自分がなっていたのですから。現在も、夢は続いています。もう目を覚ましたくないわ」
 ・・・
「・・・<ガット>というブランドの靴は、見るだけで溜息の出る、芸術作品のような靴です。・・・
 きちんと手入れをするということは、お金をかけて投資したものを守るということでしょう?それほどの美しい作品を作った人への、敬意の表示でもあるのではないでしょうか。名職人の技を駆使して作られた靴に出合うたびに、私は持てる愛情をすべて注ぎ、その人類の宝物のような靴に心から敬服して、一生懸命に磨きます。お客は感激してくれますね」