つづきです。
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学校になじめないギフテッドを取材してきたが、会社ではどのような苦労があるのだろうか。そう考えていた時に、出会ったのが吉沢拓さん(36)だった。
ブログやツイッターで情報発信されている吉沢さんは、壮絶な経験をつづっていた。社会人になってから3度の長期休暇、自殺未遂を経験した。周囲との「ずれ」は、自分ができないからなんだ―。そう絶望した中で、自身がギフテッドであると知ったという。・・・
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小学校低学年の時は、折り紙に没頭。大人向けの難しい本を見ながら、80センチ四方の紙から巨大な作品を作り上げた。習い事のピアノではソナタを弾けるものの、耳で聞いたものを再現するやり方で、譜面は読めないままだったという。
そして、小学生の時から、周囲との「ずれ」を感じていたという。算数オリンピックでは全国大会に出場し、出題されたある問題に魅了された。・・・
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大学では、情報工学系のコースに進学した。
「授業も自分で選べ、他人に気を使わなくていい。生活が自分で完結していて、授業の単位を取れば文句を言われることもない。自分一人で研究でき、とても楽だった」
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社会人生活では、視野の広さを活かした仕事ぶりが評価される一方、従来通りのやり方を踏襲する上司や同僚からは疎まれることもあった。・・・
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より効率の良いシステム管理の方法を委託先と検討していると、不要な作業や発注方法に問題があることがわかった。その問題を解決することで委託先の品質が改善し、信頼関係を築いた。本質的な解決に導けたことに手応えを感じていたが、「どっちの味方なんだ。厳しく取引先を管理しろと言っただろう。言われたことをやってない」と上司から怒られた。
自分のアイデアや課題を解決するための踏み込んだ思考をもとに主体的に動くと、上司や先輩たちの考えと合わなくなり、低評価を受ける。「人の気持ちが理解できない」「思考能力がない」「自分の頭が悪いことを受け入れろ」とののしられることもあり、体調が悪化。休職した。経緯を聞いた重役と他の上司からは「あなたのような人材が会社に必要だ」と言ってもらえた。嬉しい半面、「だったら、なぜ守ってもらえないのか」という悔しさも入り交じった。
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ギフテッドは、「知能が高くて、社会性が低い」という誤ったイメージを持たれがちだ。「本当に頭が良い人は周囲とうまくやるはずだ」という批判を向けられることもあるかもしれない。しかし、知能が高く、視野が広いからこそ、方法や目指すゴールが周囲と異なるのかもしれない。
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これからギフテッドが浸透し、採用しようという会社が出てきた時には、ギフテッドの特性や得意不得意があるということを知ってほしいという。
「ギフテッドはなんでもできる夢の人材ではありません。優秀なのではなく、特殊ということを知ってもらいたいです。扱いづらい点もあるかもしれません。会社として必要な能力と思ってもらい、能力を守って活かす方法を考えてもらえれば、お互いに良い結果を与え合う関係になれるのではないでしょうか」
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「人と違うことは決して悪いことではない。だから人と同じになろうとするのではなく、人と違う自分のことを認め、嫌いにならずにいてあげてほしい。そして、周囲の方々には、伸ばそう、教えようとするのではなく守ってあげることを大事にしてほしい」
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ギフテッドとはどのような人たちなのか。
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2021年に発足した文部科学省の有識者会議は、・・・アンケート調査を実施。980件の事例が寄せられた。・・・その一部を紹介する。
【特異な才能】
・中学に入り、ハングルを読み書きし中国語を聞き取る。スペイン語、フランス語を自学。
・英単語は一度聞けば覚えられる
・6歳で初めてピアノを弾いた時に両手で弾けた。聞いた音楽を「耳コピ」できる
・6歳でアフガニスタン紛争やカンボジア内乱、中国文化大革命、国連の意義などを毎日、お風呂の中で考えている
・2歳で歌を作り、4歳で絵本を作った。小5の現在はアプリを作成中
・4歳で九九を暗記、6歳で周期表を暗記
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文部科学省の調査でも、取材したギフテッドの当事者の方々の話からも「周囲とのなじめなさ」が浮かび上がる。なぜギフテッドの人たちがそうした苦悩を抱えるのか。角谷教授はこんなことを教えてくれた。
「知的な才能のあるギフテッドの子どもは、平均的に2~4学年、知的レベルが進んでいると言われています。これは、小学6年生が小学2年生のクラスに所属していること、高校1年生が小学6年生のクラスに所属していることに相当します」
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・・・ギフテッドのうち、9割を占めるのがIQ120~130の人で、「人並み外れた超人的な才能を持った天才」とイメージされるIQ160を超えるような人は、ギフテッドの中でもごくごくわずかだという。
「学校の先生であれば、毎年ギフテッドに出会っている可能性が高い。想像よりも多くの子どもたちが『学校の勉強は知っていることばかりでつまらない』という悩みや自分の特性を理解されずに困っている可能性があります」
IQ120~130の人たちは目に見える異能ぶりを発揮するものなのだろうか。
「IQ120前後の子どもが何らかの特定の教科で目をみはるほどの才能を発揮しているということはほとんどないでしょう。なんとなく、頭は良さそうで面白いことに気づくとか、ちょっと変わっているとかそんな子どものほうが多いだろうと思います。学校の勉強に愛想をつかしてしまった場合、小学3~4年ごろまでに学業不振の兆候を見せ始めることもあると言われています。知的な素質がありつつ、学校の成績は散々だというギフテッドもいるわけです」
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ギフテッドとよく混同されるものとして、発達障害がある。
「私たち大人は、講習会や研修会などで、知っていることばかりの内容だったらどのような行動をとりますか?」
そう角谷教授に尋ねられた。居眠りする、携帯をいじる、会場を出る、内職をする。大人でも様々な行動をとるだろう。・・・
授業中に立ち歩いたり、集中しなかったりする様が、発達障害があると誤認される場合があるのだという。どのような違いがあるのだろうか。角谷教授によると、障害の場合は、脳の機能障害が問題とされる行動を引き起こす原因となる。ギフテッドの場合、限られた状況や場面でそうした行動に出ることがある。・・・また、不適切とされる言動について本人なりに筋の通った説明ができるか、本人の意図が背後にあるかが、障害を伴うものかどうかの判断のポイントになるという。
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「ギフテッドの、一見、才能とは関係のなさそうに見える特性と知的才能との関係を知っていただきたいです。人の揚げ足をとろうとしている、ミスを探していると受け取られがちかもしれませんが、自分のほうが知っていると優劣をつけたくて言っているのではないのです。情報を知ったり共有したりするのが楽しくて、純粋な興味関心からの言動なのです。周囲がそうした特性を知り、行動を認めてあげることが重要です」
社会が広く特性を理解してはじめて、ギフテッドの才能が輝く世の中になるのだと感じた。
