実際ありうるやりとりが紹介されていて、とてもわかりやすい本でした。
その部分は長すぎて書きとめきれないので、説明の部分を書きとめておきます。
P14
・・・ごく端的にまとめると、マインドフルネスとは「今・この瞬間の自分自身の体験にしっかりと触れられるようになるための技術」であり、スキーマ療法とは「自分の生きづらさの根っこを知り、その根っこによる影響を日々の生活のなかで実感しつつ、それを乗り越えていくための技術」であると言えます。
P61
自動思考は勝手に浮かんでくる思考やイメージですが、私たちは新たな思考やイメージを自ら生み出したり、意図的に工夫したりすることができます。嫌な思い出が勝手に浮かんでくるのは自動思考的な現象ですが、楽しかった思い出、自分をよい気分にさせてくれる思い出を「あえて思い出す」ということが私たちにはできます。これがコーピングです。
すれ違いざまに舌打ちされたときに、「え?何、この人?」「私、この人に何かした?」「こ、こわい!」と思うのは、勝手に出てきた自動思考そのものですが、たとえばその後に「いや、私、この人に何もしていないし」「何か嫌なことでも思い出したのかな?」「でも私には関係のないことだから気にしないようにしよう」と「思い直し」をするならば、それが認知的なコーピングということになります。
同様に<行動>もコーピングが可能です。自分がものすごく緊張して、呼吸が浅くなっていることに気づいたら、「深呼吸をする」という行動をとって自分を落ち着かせることができます。人前でスピーチをしていて、ものすごく早口になっていることに気がつけば、「あえてゆっくりと話す」という行動を選択することができます。
P143
スキーマ療法で扱うのは、「人生の早期に形成され、後にその人を生きづらくさせるスキーマ」です。これを「早期不適応的スキーマ」と呼びます。スキーマ療法では、認知行動療法ではなかなか解消されない慢性的で強固な問題の背景には、早期不適応的スキーマの存在があると仮定します。したがってその人の抱える早期不適応的スキーマが何であるかを理解し、それらの早期不適応的スキーマを乗り越えていくことで、慢性的な問題や生きづらさを解消し回復を図る、というのがスキーマ療法の目的になります。
それでは早期不適応的スキーマはどうして形成されてしまうのでしょうか。
ヤング先生の説明は、人は誰しも満たされて当然の「中核的感情欲求」というものを持っていて、それが幼少期や子ども時代に適切に満たされるとヘルシーでハッピーなスキーマが形成されるのですが、それが適切に満たされないと、早期不適応的スキーマが形成されてしまう、というものです。
・・・
ヤング先生は、次の五つの中核的感情欲求を想定しました。
1 愛してもらいたい。守ってもらいたい。理解してもらいたい。
2 有能な人間になりたい。いろんなことがうまくできるようになりたい。
3 自分の感情や思いを自由に表現したい。自分の意志を大切にしたい。
4 自由にのびのびと動きたい。楽しく遊びたい。生き生きと楽しみたい。
5 自律性のある人間になりたい。ある程度自分をコントロールできるしっかりとした人間になりたい。
そしてそれぞれの中核的感情欲求が満たされなかった結果として、次の五つの領域の傷つきが発生すると考えました。
1 人との関わりが断絶されること
2 「できない自分」にしかなれないこと
3 他者を優先し、自分を抑えること
4 物事を悲観し、自分や他人を追い詰めること
5 自分勝手になりすぎること
ヤング先生は、さらにこの五つの領域に属する一八の早期不適応的スキーマを提案しました・・・。
第1領域 人との関わりが断絶されること
①見捨てられスキーマ
②不信・虐待スキーマ
③「愛されない」「わかってもらえない」スキーマ
④欠陥・恥スキーマ
⑤孤立スキーマ
第2領域 「できない自分」にしかなれないこと
⑥無能・依存スキーマ
⑦「この世には何があるかわからないし、自分はそれらにいとも簡単にやられてしまう」スキーマ
⑧巻き込まれスキーマ
⑨失敗スキーマ
第3領域 他者を優先し、自分を抑えること
⑩服従スキーマ
⑪自己犠牲スキーマ
⑫「ほめられたい」「評価されたい」スキーマ
第4領域 物事を悲観し、自分や他人を追い詰めること
⑬否定・悲観スキーマ
⑭感情抑制スキーマ
⑮完璧主義的「べき」スキーマ
⑯「できなければ罰されるべき」スキーマ
第5領域 自分勝手になりすぎること
⑰「オレ様・女王様」スキーマ
⑱「自分をコントロールできない」スキーマ
ここに紹介した「早期不適応的スキーマ」のモデルを使ったスキーマ療法は、以下のような流れで進みます。
[1]安全なイメージと安全な儀式
幼少期や思春期の傷つき体験を理解し、それによって形成された自らの早期不適応的スキーマを理解するスキーマ療法のワークは、ときにかなりきついものとなります。したがって、いきなり傷つき体験やスキーマに直面化する前に、必ず「安全なイメージ」や「安全な儀式」を準備して、きつくなったらいつでも「安全」「安心」なところに心が戻れるようにしておきます。
[2]過去体験のヒアリング
幼少期や思春期の体験を聞かせてもらって共有します。その際、おもに早期不適応的スキーマのもとになったと思われる体験(中核的感情欲求が満たされなかった体験、傷つき体験、つらかった体験)をヒアリングしていくこととなります。
この作業は「過去の自分に会いに行く」ような気持ちで取り組む必要があります。単に「こんなことがありました」「あんなことがありました」と頭のなかで年表をつくるようなヒアリングではなく、その時々の自分に直接会いに行き、その時々の自分がその体験をどのように感じていたのか、ということを生々しく理解できるようなヒアリングである必要があります。
スキーマ療法のなかでもいちばんきついワークがこのヒアリングです。だからこそ上記の「安全なイメージ」や「安全な儀式」が必要となります。
[3]早期不適応的スキーマの理解とスキーママップの作成
ヒアリングで共有された過去体験をもとに、自分のなかにどの早期不適応的スキーマがどの程度あるのかを検討します。またスキーマをフレーズ(文章)の形に表現してみたり、主たるスキーマやフレーズを図(マップ)に描いてみたりして、自分のスキーマのあり様を具体的に理解していきます。スキーマもフレーズもマップもすべて紙などに書き出して、目で見てわかるような形にします。
このような作業を通じて、自分の生きづらさの正体がしだいに見えてきます。「このスキーマがあるから、自分はいつもこんなに苦しいんだな」「このスキーマのせいで、自分はこんなに悲しい思いをするんだ」というように。そして自分の生きづらさをこんなふうにとらえられるようになると、今度はしだいにスキーマを手放したくなってきます。「自分をこんなにもつらくさせる、こんなスキーマはいらない!」というように。
[4]さまざまな技法を用いての「ハッピースキーマ」の形成
そこで早期不適応的スキーマとは異なり、自分を真に幸せにしてくれる「ハッピースキーマ」を手に入れる作業に入ります。ハッピースキーマを手に入れるには、認知行動療法のありとあらゆる技法を用いたり、後に述べる治療的再養育法やモードワークといった技法を用いたりする必要があります。早期不適応的スキーマは長年自分につきまとってきたスキーマなので非常にしぶといです。そのスキーマを手放し、新たにハッピースキーマを手に入れるには、セラピストと一緒に根気強くワークに取り組む必要があります。
[5]「治療的再養育法」について
スキーマ療法では、中核的感情欲求を適切に満たしてもらえなかった心の傷つき(早期不適応的スキーマ)をありとあらゆる方法を駆使して癒し、ハッピースキーマを形成することを目指します。ここで鍵となるのが「育て直し」の発想です。「育て直し」とは、子ども時代に満たしてもらえなかった部分を、今、満たしてあげればよいではないか、という考え方です。自分のなかに残っている「傷ついた子ども」の部分を、治療のなかで、健全な方向に育成していこうという考え方です。スキーマ療法ではそれを「治療的再養育法」と呼び、非常に重視しています。
セラピストは治療的再養育法において、クライアントのなかの傷ついた子どもの部分に対して養育的に関わろうとします。セラピストだけでなく、クライアントの心のなかに、さまざまな養育者のイメージを置くこともできます。「こんなパパやママだったらいいなあ」と思える人をイメージのなかに置いて、その人物に自分の傷ついた子どもの部分を癒してもらったり、頼りない子どもの部分を導いてもらったりするのです。
よく用いられている養育者のイメージとしては、ムーミンママとパパ、バカボンのパパ、マザー・テレサなどがありますが、そういう有名なキャラクターではなく、身近にいる人で、「こういう人に癒してもらいたい」「こういう人に助けてもらいたい」という人をイメージに置くこともできます。あるいはクライアントのなかの、<ヘルシーな大人モード>・・・を養育者のイメージとして、クライアントのなかで治療的再養育法を行うこともできます。
スキーマ療法は当初、上記の「早期不適応的スキーマ」のモデルにもとづいて構築されましたが、後に「スキーマモード」という新たなモデルが追加されました。スキーマモードとは、「今現在、その人はどのような感情状態にあるか」ということを表した用語です。ある状況であるスキーマが活性化されると、それによってさまざまな自動思考が生じ、さまざまな気分・感情が発生します。その時々の自動思考や気分・感情をひっくるめて、それをモードと呼ぶことにしたのです。さまざまな状況や場においてさまざまな自動思考や気分・感情が私たちには生じますから、モードは無数にあると考えられます。その無数にあり得るモードを次の五つに分類しました。
・傷ついた子どもモード
自分の内なる「子ども」の部分が傷ついて、悲しんだり、さみしがったり、おびえたり、怒ったり、すねたりしているモードです。
・傷つける大人モード
幼少期に自分を傷つけてきた大人の声が自分のなかに残っており、その声がモードとなって自分を攻撃したり、要求したりするのが、このモードです。
・いただけない対処モード
早期不適応的スキーマから自分を救おうとするのですが(例:寝逃げをする、相手に逆ギレする、酒に逃げる、過剰に仕事に没頭する、誰ともつきあわない)、それが結果的に自分助けになっていない場合、それを<いただけない対処モード>と呼びます。
・ヘルシーモード(幸せな子どもモード)
自分の内なる「幸せな子ども」のことです。大人の私たちでも、安全な環境のなかで、遊んだり、楽しんだり、喜んだり、リラックスしたり、誰かに世話をしてもらったりすると、このモードに入ります。
・ヘルシーモード(ヘルシーな大人モード)
「健全な大人の自我機能」がこのモードです。このモードが自分のなかに司令塔としてしっかりと機能していれば、その人は自分の体験をマインドフルに受け止め、必要な自分助けをすることができます。他者とも健全な関係を結び、助け合うことができます。
この新たなモードモデルにもとづいてスキーマ療法を進める場合は、以下のような流れになります。
(1)自分が今どのモードに入っているのかに気づけるようになる必要があります。認知行動療法でセルフモニタリングの練習が十分にできていれば、モードへの気づきはさほど難しくありません。
(2)イメージのなかで各モードに対して適切な対応をします。それを「モードワーク」と呼びます。具体的には次のように行います。
・傷ついた子どもモードに対して
その子どもの感情を理解し、受け止め、適切に癒します。たとえば、さみしがってしくしく泣いている子どもモードであれば、そのモードに対して、「さみしかったんだね。それはつらかったね。さみしい思いをさせちゃってごめんね。でももう大丈夫だよ。私がついているから。私が一緒にいるから」と言うことができます。治療的再養育法の一環として、セラピストや他の養育者のイメージがそのように声かけをしてあげることもできます。
・傷つける大人モードに対して
<傷つける大人モード>の言いなりになると、ますます傷つくので、基本的には出て行ってもらいます。たとえば「お前のようなダメ人間は生きている意味がない。死んでしまえばいい」といった声を、<傷つける大人モード>が投げつけてきた場合、「なんてひどいことを言うの!あなたの言い分を聞けば聞くほど傷つくばかりだから、もうこれ以上聞きたくない!出て行って!もう二度と来ないで!」と言って<傷つける大人モード>を追い出すことができます。
・・・
・いただけない対処モードに対して
一見自分助けのように見えながら、実際には助けになっていないというのがこのモードの特徴です。したがってこのモードに入りかけたこと、あるいは入ってしまったことに気がついたら、「対処しようとしているのはわかるけれども、そのやり方では、本当の助けにはならないんだよね。だから引退してくれる?」と言って、このモードに退いてもらう必要があります。
・・・
・幸せな子どもモードに対して
これはヘルシーなモードですから、このモードが出てきたら、「よかったね」「安心しているんだね」「楽しいんだね」と見守ってあげるとよいでしょう。治療的再養育法の一環としては、セラピストや他の養育者がイメージのなかで「一緒に遊ぼうか」と声をかけて一緒に遊ぶこともできます。
・ヘルシーな大人モードに対して
このモードに限っては、このモードに対して何かをするというのではなく、スキーマ療法におけるさまざまな取り組みを通じて、とにかくこのモードを育み、強化していくに限ります。
