そこまで美味しかったっけ?と思うくらい絶賛されていておもしろかったです。
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今では大好物だが、初めて見たときは5分くらい言葉が出なかった不思議なアイスが「あいすまんじゅう」だ。
バニラアイスのボディの中に、なんと小豆あんが入っている。僕がそうだったように、イタリア人には絶対にない発想で、説明を聞いても想像がつかないようなアイスだ。
そのときは買わなかったが、その後、何回も見かけ、まるで僕を呼んでいるかのように感じた。そしてついに、あいすまんじゅうの思惑どおり、僕はまんまと買わされてしまったのだった。
一口食べた瞬間、北海道の小豆パラダイスに飛ばされたような気分になり、気が付けば涙が出ていた。外側は、硬めのバニラアイスで濃厚さがなんとも言えない。中からトロッとした小豆が出てきて、まさしくアイスを超えたまんじゅうだった。
「人間がこのようなものを作れるなんて!」と一人でつぶやき、一人で感動し、現実に戻ったアイスが溶けていて食べるのが大変だった。
「次は早く食べないと溶けちゃう!」と思いながら、2回目のあいすまんじゅうも同じ結果になったので、笑った。3回目にやっときれいに食べることができ、相変わらずおいしかった。
日本の市販アイスの魅力は、季節ごとに味が変わり、期間限定のものが定期的に出て、一年中楽しめることにある。あいすまんじゅうは和栗味もあって、食べたときに改めて感動した。ある日、あいすまんじゅうのことを調べようと思い、検索してみたら息が止まった。僕が知っているほかにも、なんとさまざまな種類があるではないか!死ぬまでに全部の味を食べようと決め、現在、あいすまんじゅうを食べ尽くす計画を進行中だ。
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日本に住み始めた最初の頃、日本人の同僚に勧められて購入した「炊飯器」。これは本当に僕を悩ませた。まずイタリアでは「ごはんを炊く」という感覚がなく、どちらかというとリゾットのように「お鍋で調理する」という感覚だ。
お米をふわふわにするためだけの機械があるなんて想像できず、スーパーでドキドキしながら買った精米を早く炊いてみたかった。
ところが、家に帰って炊飯器を用意したのはいいものの、使い方がまるでわからない。当時は説明書を丁寧に読めるだけの日本語力はまだなくて、書いてあることがさっぱりだった。辞書を使いながら翻訳して、なんとか炊飯器のスイッチを押すところまで成功したのだった。
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いつの間にか、「このお米は何県産か?」とか「炊き方」を気にするようになった。そのとき、初めて自分の変化に気が付いたのだ。日本人のように、新米の時期を楽しみにしている自分に。
普通のお米ももちろんおいしいけど、新米はさらに何倍もおいしく、神様からいただいた特別な贈り物のように感じる。ごはんとみそ汁、ごはんと漬物、ごはんとのりといったシンプルなおいしさは、今でも泣きながら完食してしまう。
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最初の方に炊飯器とのストーリーを書いたけど、当時は僕を困らせた炊飯器も、今では「これで本当に人生が変わった」と思えるくらいに使いこなしている。
タイマーの設定、調理設定、お米の種類によって炊き方は変わるけど、ボタンを押すだけで済む。お米と一緒に野菜や魚も入れたら、炊き込みごはんができる。日本人にとっては当たり前だけど、僕は炊飯器を使うたびに感謝している。もっと早く、イタリアにいた頃に出会えればよかった。「おいしいごはんを炊いてね」と声をかけてしまうくらい好きな存在だ。
ごはんに出会ったことで、日本のシンプルな味の奥深さを僕は知ったのだった。