ちゃんとすること

世間ってなんだ (講談社+α新書)

 国が変われば「ちゃんとすること」も変わるというお話、面白いな~と思いました。

 

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 僕が司会をしているNHK-BS1の番組『COOL JAPAN』で、『夫婦』を取り上げました。

 んでね、日本人は「なんでも過剰にちゃんとして息が詰まるような雰囲気にしてしまう国民」なんていうイメージがあるんですけど、こと夫婦のさまざまなことに関しては、全然、ちゃんとしてないわけです。

 あなたは結婚してますか?もしくは恋人がいますか?いる人は、毎日「愛してる」って言ってます?

 その人と、毎日、キスしてます?

 ね、全然、ちゃんとしてないでしょう、ってあなたの答えを勝手に想像して書いてますけど、たぶん、違ってないでしょう。

 で、番組には、イタリア人女性がいたわけです。イタリアもスペインも、ラテン系はだいたいちゃんとしてないイメージですね。ちゃんとしないで、人生を享楽しているイメージ。

 スペイン人の参加者が、「スペインでは、7時のニュースは7時に始まらない」と言った時はのけぞりましたからね。1分とか2分とか、開始が遅れるんだそうです。

 いや、いくらなんでもジョークだろうと、スタッフがスペイン大使館に問い合わせたところ(なにせNHKの番組ですから、正確さが求められます)「そういうことは、あります」と普通に答えられたと驚いていました。

 日本だと、間違いなく担当者のクビが飛ぶでしょう。

 で、イタリアもスペインも、地下鉄は毎日、同じ所に止まらないし(1メートル前後、毎日ズレます)、天気がいいと昼休みの休憩は10分20分は平気で延びて、銀行や郵便局の窓口に担当者がいないことがよくあります。

 これはネタで書いているのではなくて、事実だからしょうがない。

 ・・・

 で、じゃあ、人生、なんでもちゃんとしてないんだろうと思うと、これがあなた―番組に参加したイタリア人女性は、数ヵ月前、日本人男性と結婚したばかりでした。

 で、「毎日、愛してる」と言うことは当たり前だと普通に言うのです。もちろん、毎日、キスをするのも当たり前(当然、結婚前から続いてます)。

 夫の日本人男性がスタジオに見学に来ていました。なかなかハンサムな若い男性でした。

「大変でしょう」と、完全に同情の声で話しかけると、

「いえ、勉強ですから」と、その男性は答えました。

 なんと日本人的な発言でしょう。彼は、「愛し方、愛の表現の仕方。キスの仕方。愛の言葉の使い方」を毎日、本場(?)のイタリア人女性に仕込まれながら、勉強を続けているのです。

 僕は思わず、「ご苦労様です」と深々と頭を下げました。「生涯学習」の日本人だからこそ、できることなんじゃないかと、思わず目頭が熱くなりました。

 イタリア人女性に、「愛してるって言い忘れたり、もっとひどい場合、結婚記念日とか誕生日とか忘れたら、すぐに離婚ですね」と話を振ると、

「とんでもない。そういう時は、プレゼントをもらうの」と言うのです。

「離婚する時は、私に好きな人ができた時だけ。それ以外は、プレゼントをもらう。それでいいの」

 僕はまた、イタリア魂(?)に感動しました。離婚する時は、「夫に好きな人ができた時」とか「夫が浮気した時」ではなく、「自分に好きな人ができた時」なのです。

 んで、それ以外は、プレゼントで許すというのです。

 僕はご主人に「プレゼントだそうですよ」とまた振ると、彼は「はい。もう何回か、渡しました」と答えたのです。

 なんでも大雑把とかちゃんとしてないと思われている(いや、イメージですけどね)イタリア人は、恋愛に関しては、じつにちゃんとしているのです。

 日本人からすれば、過剰なぐらいちゃんとしているのです。