こんなにちがう!世界の子育て

こんなにちがう! 世界の子育て

 当たり前と思われていることって、人によって全然違うなぁと・・・アルゼンチンがそんなに宵っ張り文化だとは初めて知りました。

 

P16

 二〇〇四年に夫と二人でアルゼンチンに移り住んだ時、子供のいない私たちは夜遅くまで起きていることに慣れっこだった。アメリカにいた頃、週末の夜にはバーが閉店する一時や二時までねばることもよくあった。ところが、そんなのはアルゼンチン人に比べたらほんの序の口。ピカーダ(前菜)にメイン、デザートとエンドレスな会話を伴う夕食に友達が私たちを招くのは夜の九時や十時や十一時なのだから。午前三時のコーヒータイムに、気づけば私たちはうつらうつらしている。いくらがんばってもたいてい一番先にお暇することになり、結局翌日は昼まで熟睡、寝室を出る頃には真昼の太陽が目にしみるのが落ちなのだ。いったい現地の人たちはどうやっているのだろう?朝から仕事があって、子供もいる。まさか全然寝ていないとか?私は恐れをなしていた。

 初めての子供をアルゼンチンで出産して、こういう疑問が新たな緊急課題の様相を帯びるようになり、私は近所の友達や子を持つお父さんお母さん、小児科医、文化教養の専門家にまで質問して回った。そして、深夜の活動が、この街の言わば文化的遺伝子だということを突き止めた。ブエノスアイレスの住人の多くは、一八〇〇年代から一九〇〇年代の初めにアルゼンチンに移住したスペイン人やイタリア人家系の子孫だ。灼熱の太陽が沈んでから夕食をとり、子供たちの夜ふかしはあまり気にしないという地中海南部の習慣を、移住した時に彼らが持ち込んだのだ。

 ・・・

 ・・・こうしてブエノスアイレスは、レストラン経営者は午後八時までドアを開けず、午前二時にならなければクラブの入店待ちの行列もできない、まるで人々が本当に眠りを忘れたかのような街へと変貌を遂げた。表彰したくなるほどの宵っ張りだ。「ブエノスアイレスの夕食は夜十時から深夜、午前にかけて。パリやニューヨーク、ロンドンなどのレストランは八時半には満席ですが、ここブエノスアイレスでは午後十一時までそんなことにはなりません」市の公式ホームページには得意気にこう書かれている。

 ・・・

 もちろん限度はある。アメリカ人には到底許容できないほど遅い時間にずれ込みがちとはいえ、平日の夜には、大半の子供たちは決められた就寝時間を守る。・・・それでも、騒々しいサッカーの試合や夜の大がかりな興行で、親について来た子供の姿を見るのは別段珍しくはない。・・・

 誕生会やバーベキューなど家庭でのイベントで子供はたいてい歓迎され、子連れお断りの招待のほうが珍しい(そういう招待は、夫婦のうちどちらかがアルゼンチン人ではない家庭から受けたことがある)。夜の八時から朝の七時まで続くのが常の結婚式にもほぼ必ず子供が出席するのが特徴である。

 ・・・

 ・・・私が出会った多くの家庭では、毎晩同じ時間、同じ場所で子供を寝かしつけることよりも、親類や友達と価値ある時間を過ごすほうが大事だと考えられている。

 ・・・

「夫婦の習慣とマテオの生活のバランスをとる努力はしたわ」自らの社会生活に息子を組み入れるかのように臨機応変なガルシアとアコスタに、私がどれほど感服しているかと伝えた時、ガルシアはこう言った。

「楽じゃないよ」アコスタが私に釘を刺したことがある。ほかの親たちと同じように、彼らもまた犠牲を払っていた。息子が疲れていたり病気だったり、自分たち自身が息子を追いかけ回すエネルギーがない時には外出を控えた。独身の友達に会うことも減ったし、思いつきで出かけることもかなわない。マテオは時折爆発して、レストランのボックス席で癇癪を起して母親に箸を投げつけたこともある。でもブエノスアイレスでは、公共の場で子供が駄々をこねても視線を向ける人はほとんどいない。それどころか、親切なお客さんやウエイター、経営者などは近づいてきて助けてくれることさえある。公の場でのこういう苦難は、我が子が自分や家族とより多くの時間過ごすことができて、自分が途切れることなく友達と会い続けられることで報われるのだ(正気を保つ秘訣でもある)。

「概して、親たちはどこに行くのも自分の赤ちゃんと一緒という印象があるわ」とガルシア。「子供がこの後、手がつけられないくらい暴れるようになって、しばらく連れて出かけられなくなる期間(幼児時代に訪れる)が待っているの。でも、子供が言うことを聞けるようになれば、また一緒に外出できるってわけ」

 ・・・

 ・・・小学校に上がってからは、平日は十時就寝というスケジュールをガルシアもアコスタも守るようになり、遅くなることを以前ほど軽んじなくなった。始業時間に五分でも遅れたら、責任を問われるのは子供と親なのである。それでも、週末や夏休みになると、マテオのママも気楽に構えて夜ふかしを許す。「たとえば昨日は、私の母の家に行って帰りは深夜だったけれど」とガルシアは言う。「家に着くとまるで赤ちゃんみたいに眠ったわ」

 ・・・

 ブエノスアイレスの家庭では、夜遅くまで起きている代わりに朝ゆっくり寝ることで最低限の埋め合わせはしているようだ。子供らは普段九時十時までいびきをかいていて、七時半に起きてこようものなら文句たらたらの友人に、私は常々言葉を失う。アメリカ人がとっくにジムでひと汗かいてシャワーを浴び、仕事に向かっている八時頃まで社会は動き出さない。・・・朝食を出す店がコーヒーを注ぎ始めるのは早くて八時だ。朝保育園が開くのは、標準的なアメリカの学校よりも一時間以上遅い九時で、たいがいの家庭はいまだに午後になってから子供を保育園に連れて行く。土曜の朝十時前にソフィアを公園に連れて行っても人っ子ひとりいないのが当たり前なのだ。