正しい子育てをめぐる・・・

こんなにちがう! 世界の子育て

 いろんな文化圏で違う価値観、それでも共通する親の思いなど、印象に残ったところです。

 

P158

 養女である私は、昨今のアメリカで養子縁組がかなり一般的に行われているとはいえ、良く言ってそれは物珍しいことで、悪く言えば隠しておくべきことだと考える人が多いという事実に気づいた。そのような家族の在り方が世間の基準からはずれていると考える人が多いため、愛情深い養父母は、養子であることを子供にどう伝え(あるいは伝えるべきか否か)、追々子供がその事実をどう自分の中で処理するのだろうかと思い悩む。家族の定義は近年変わりつつあるというのに、私たちの社会では、いまだに親と子の血縁関係が重視される傾向にある。

 養子や里子を育てるのがごく当たり前で、遺伝的なつながりがなくてもまるで気にかけないという文化もある。ボツワナのツワナ族は、育児に対する要求を親戚が率直に述べ、両親がしぶしぶ受け入れる。エルトムーテ・アルベールは、西アフリカはベナンのバリバ族の間では「里子を取るのは例外ではなく、ごく普通のこと」だと言う。アルベールがバリバ族を訪ねて調査したところ、実の両親に育てられたと答えたのは、面談した成人百五十人のうちわずか二人だったと報告している。他のアフリカ人コミュニティでは、子供は複数の妻たちの間を自由に行き来する。中国からの出稼ぎ労働者は、生計を立てるために遠く離れた街で暮らす間、子供を何年間も親戚や近所の人に託す。

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『The Kinning of Foreigners:Transnational Adoption in a Global Perspective(外国人を親族にするということ―国際的視点から見た国境を越える養子縁組)』の中で、シグネ・ハウウェルはそういった例をいくつか挙げた。「他人の子供を我が子のように育てることが制度として実践されている社会では」と彼女は書いている。「子供たちは責任を持って面倒を見てくれた保護者と実の親子のように絆を深め、その関係は従来の『親族』という言葉で表現されます」このような慣行は、と彼女は主張する。「家族のつながりとはいったい何なのかについての欧米的な思い込み―つまりは、血縁に基づいて成り立つ関係―に、疑問を投げかけているのです」

 

P270

 ・・・あらゆる地域の育児にグローバル化が与えた影響に、私自身が衝撃を受けた・・・環境、政治、物質的なニーズにグローバル経済が与えた影響に関する議論は数あれど、育児の観点でのグローバル化については私は考えたこともなかった。子育て世代の親とその子供を営利の対象としたことで、多くの文化圏で育児(食事、寝かしつけ、勉強、遊び相手)のやり方に変化が起きた。オムツは中国人のトイレトレーニングの開始を次第に遅らせ、ファストフードはフランス人の神聖なる食事時間を脅かし、経済的現実のせいで大規模な拡大家族は散り散りに暮らすようになった。哺乳瓶と粉ミルクのおかげで授乳時間は短くなり、遠いアフリカの村々でも、大量生産のオモチャが枝木や石ころに取って代わろうとしている。チベットの果てでは、現代医学によって出産も変容しようとしている。それぞれの変化の良し悪しはまだ分からないけれど、育児の価値と慣行が姿を変えつつあること、そして、「正しい子育て」をめぐる議論がますます単調になっていることは否定しようがない。どれほど欧米のやり方が重要だとしても、多様な意見が必要だと考えずにはいられない。明快さを重視して、本書では「現代的な」―全てとは言わないまでも、多くの文化園で確実に見受けられる―やり方よりも、昔ながらの、土地柄を反映した慣例に焦点を当てることを選んだ。

 それでも私は、子育てが型どおりの過程を踏むものではないことを痛感している。・・・異なる文化圏の親たちの目線で育児を見つめることで、私は心を開き、揺らぐことのなかった信念や慣習を疑ってかかることができた。さまざまな人たちのやり方を見聞きするうち、自分が正しいと信じていたことを見直すことができた。時にはそれは自分の考えを強固なものにしたり、またある時にはすっかり変えてしまった。・・・

 さまざまな状況や環境に置かれた家庭の適応力と柔軟さを目の当たりにし、私は極めて楽観的な結論に達した。信念、宗教、文化がどれほど違っても、ママたち、パパたち、そして養育者たちの願い―現実社会を力強く生き抜いていける子に育てたい―は、ほぼすべての社会で共通している。子育ての一側面のみを取り上げて、ある文化園が抜きん出ているとは言えない一方で、それぞれの文化園に議論を深める貴重な知恵がある。「子育ての最善策は一つだ」という、物悲しく罪深い主張に支配され、親としての偏狭さの中に自分を閉じ込めてしまうのは不健全だ。・・・子供はこう扱うべきという普遍的な基準はそれなりにあるとはいえ、良い親になる方法は世界中にいくらでもあふれている。そう考えることが、家族が成長していく中で勇気と力を授けてくれることだろう。