世界をつくり変える男 イーロン・マスク

イーロン・マスク 世界をつくり変える男

「2時間でわかるイーロン入門」と書いてある通りの本、へぇ~!がいっぱいでした。

 

P12

 イーロンは「電気自動車の年間販売台数を、世界中で1億台にする」と発言したのです。

 この数字は「世界中で一年間に販売される自動車の台数」そのものです。つまり、イーロンは「新たに車を購入する人は、すべて電気自動車になる」という未来を実現させようとしているのです。

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 ・・・彼が目線の先に見据えているのは「自らのビジネスの成功」なんてものではなく、「世界の未来」であり「実現させたい理想」・・・

 イーロン・マスクが凄まじいのは「電気自動車の販売台数を1億台にする」と言うときに、「テスラ車の販売台数を……」とは言わなかったところです。

 彼は何も、テスラで金儲けをしたいわけでもなく、テスラの株価を上げたいわけでもありません。「新しい世界」「世の中の未来」を思い描き、創造しようとしているのです。未来の街を走り回っている車が電気自動車であれば、それがテスラだろうが、他社製だろうが構わないのです。

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 イーロンが描く未来の実現には、ほかにもさまざまなハードル(それもとてつもなく高いハードル)がいくつもそびえ立っています。

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 イーロンが革新的なビジネスを展開すればするほど、強力な抵抗勢力が現れ、その相手ともことあるごとに戦っていかなければならないからです。当然のことながら、イーロンの存在を苦々しく思っている人も大勢いるのです。

 その巨大な敵とは、たとえばGMなど全米の自動車業界であり、それによりかかる全米のディーラー協会、その背後には石油利権に群がる企業や政治家など「石油族」が控えており、まさに「権力の中枢」とも呼ぶべき相手と対峙していかなければなりません。

「安くて、いいもの」を作れば、それで万事うまくいくほど、世の中はシンプルでも、甘くもないのです。

 たとえば、これが「スマートフォンを作る」とか「新しいSNSを開発する」といった、『シリコンバレー型ビジネス』なら、比較的簡単にいくかもしれません。

 なぜなら、それらは新しいマーケットを形成するため、抵抗勢力も少ないからです。実際、ザッカーバーグフェイスブックを10億人に広めるのに、それほど大きな抵抗勢力は存在しなかったでしょう。

 しかし、イーロンがやっているビジネス領域は違います。

「スペースX」の航空宇宙産業にしろ、「テスラ」の自動車産業にしろ、既得権益でガチガチに守られた牙城にこの男は殴り込みをかけているのです。その抵抗たるや、半端ではありません。・・・

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 つまり、イーロンは、

 

 まったく新しいテクノロジーを開発しつつ、

 自らのビジネスを成功させ、

 同時に巨大な既得権者とも戦っていく。

 

 こんな「とんでもないミッション」を、想像を絶するスケールとクオリティとスピードで同時進行させなければならないのです。

 しかし、それこそが「世界を変える」「未来を作る」という仕事であり、イーロン・マスクという男の一挙手一投足に多くの人が注目し、ワクワクし、痛快ささえ感じるのでしょう。

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 ・・・ここまで、イーロン・マスクの宇宙産業と、自動車産業について語ってきましたが、そのほかにも、太陽光での「発電事業」、その発電した電気を効果的にためる「蓄電事業」、まったく新しい交通システム「ハイパーループ」、人間の脳とコンピュータを融合させる「ニューラリンク」など、世界を驚かせる巨大なプランを次々と打ち出し、着実に進行させています。

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 今、世界を見渡して、これほど未来を託したくなるリーダーがいるでしょうか。イーロンのことを知れば知るほど、数兆円もの自分の財産を「あげてもいいと思った」ラリー・ペイジの気持ちがわかります。

 

P41

 世界は時として急速に舵を切ることがあります。2016年にドイツ連邦参議院では「2030年までに内燃エンジンを搭載した新車の販売禁止を求める決議」が可決されました。これにより、2030年以降、新車を買おうと思ったら、いわゆる「ZEV」(ゼロ・エミッション・ビークル排気ガスを出さない車)しか購入できなくなります。

 また、ドイツはこの禁止案をEC(欧州委員会)にも実施するよう求めていて、ドイツの影響力を考えれば、その方向へ進んでいく可能性は高いでしょう。

 さらに、イギリスとフランスは2040年以降、ガソリン、ディーゼル車の新車販売を禁止すると打ち出しました。それ以外にも、ノルウェースウェーデン、オランダなどがガソリン、ディーゼル車の販売禁止を2025年から2030年には実施することを発表しています。

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 ・・・これらの動きのすべてがイーロン・マスクの影響だとは言いませんが、イーロンやテスラが与えたインパクトが、時代の歩みを後押ししているのは事実です。そういえば、テスラがロードスターを出した2008年当時、世界の大手自動車メーカーは冷ややかな目でイーロンたちの闘いを眺めていただけでした。重い腰を上げない大手自動車メーカーに対しイーロンは「テスラ社の役割は、暗闇の中を照らす光のようなものなんだ。その結果、電気自動車の導入が5年から10年早くなってくれる」と発言していたことを思い起こします。

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 理想を諦めることなく、着実にステップアップしていくスペースXの人材募集のページには、こんな強烈なメッセージが掲げてありました。

「不可能を恐れることなく、厳しいスケジュール下で、とほうもなく挑戦的なプロジェクトに携わりたい人」

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 もしもイーロンが、どこにでもあるようなありふれて陳腐な理想しか掲げていなかったら、部下達が死に物狂いで仕事に挑むなんて、けっしてしないでしょう。とんでもなく高い理想があるからこそ、部下達は脳みそから汗が出るほど知恵を絞り、常識の壁に対し狂ったように挑戦できるのです。

 そして、一歩ずつでも確実に実現させていく。

 この「理想と現実」という両輪がしっかりと回ることで、まわりの人々がパワーを増して結集し、やがては、立ちはだかる大きな山をも動かすことができるのです。

 

P97

 壮大な目標を掲げ、爆走を続けるイーロン・マスクですが、決して誰からも愛される聖人君子というわけではありません。

 部下の手柄でも自分がすべてやったように言ってみたり、感情に任せて「くそったれ!こんなこともできないのか」と怒鳴り上げたりすることも珍しくありません。

 相手の立場や状況をよく考えずに発言するのは、部下に対してだけでなく、外部の人にも同様です。・・・連邦航空局の役人を馬鹿呼ばわりしてヒンシュクを買ったこともあります。相手が役人だろうと役職が高かろうと「マヌケな奴はマヌケだ」というのがイーロンの捉え方。

 そんな暴言王の尻拭いをする側近たちはたいへんです。

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 イーロンと波長が合えば、彼の1000本ノックでも平然と受け止められますが、波長が合わなければ辞めていくしかない。事実、そんな人たちも大勢います。

 それでもイーロンのビジョナリストとしての素晴らしさと、破格の行動力に周りの人たちが魅了されるのは事実です。スティーブ・ジョブズにも共通するところがありますが、万人に愛される心優しいリーダーでは、未来を切り開くことは出来ないということです。

 

P136

 少年時代のイーロンはとにかく本の虫で、休みの日は一日で2冊の本を読破していたと言います。小学3、4年の頃には、学校の図書館はおろか、家の近くにあった図書館の本まで読み尽くし、「読む本がないので、新しい本を入れてほしい」と要望したこともあるほどでした。

 また、イーロンは10歳の頃、初めてコンピュータに触れ、それ以降プログラミングの虜になっていくのですが、通常は6か月かけて学ぶ手引書を、三日三晩一睡もせずに読破し、プログラミングの基礎をマスターしてしまったことからも、幼くしてハイスピードで学ぶ能力を身につけていたことがわかります。