プラセボ効果の根拠

患者の話は医師にどう聞こえるのか――診察室のすれちがいを科学する

 プラセボ効果については以前他の本でも読みましたが、コミュニケーションがこんなにはっきり結果に影響するんだと、興味深かったです。

 

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 治療者と患者のあいだのコミュニケーションが痛みに与える影響・・・カナダの研究者が腰痛患者一二〇人を四つのグループに分けた。半数の患者は電気刺激を受け、半分の患者は偽の刺激を受けた。・・・偽の刺激を受けたグループの患者に対しては、機械は正しく動いているのだが、これは「新しい機械」のためヒリヒリ感はまったく感じないかもしれないと説明した。

 ・・・多くの他の研究が示すように、偽薬治療(すなわちプラセボ)はかなり有効である―これらの患者の痛みのレベルは二五パーセント減少する。・・・本物の電気刺激を受けた患者のほうでは痛みのレベルが四五パーセント減少した・・・

 しかし、研究はこれだけでは終わらない。この二つのグループはさらに半分に分けられた。半分の患者は理学療法士とかわせる会話が限定された。・・・治療中はずっと静かにする必要があると伝えた。残りの半分では、療法士は治療のあいだじゅうずっと話しつづけた。・・・「治療的提携」を築くことを目指し、開かれた質問や傾聴、患者の生活に腰痛がどう影響しているのかを質問したりした。・・・共感を示しつつ、励ましたり、改善に向けての楽観的な考えを示したりした。目を合わせたり、触れたりすることが多かった。

 当然のことながら、より強くかかわろうとした療法士が担当した患者のほうがよい結果が得られたのだが、その改善の度合いは印象的だ。偽の治療を受けた患者で―電気刺激なし―コミュニケーションを積極的にとろうとする療法士に担当されたものは、痛みが五五パーセント減ったと報告した。ちょっと考えてみてほしい―療法士とのコミュニケーションは治療本体よりも効果的だったのだ(電気刺激だけで痛みが四五パーセント減少したのに対し、コミュニケーションだけでは痛みが五五パーセント減少した)。

 電気刺激を受け、積極的な理学療法士に担当された患者が完全な勝利者で、痛みが七七パーセント減少した。・・・

 ・・・

 ・・・ヒーラーやシャーマンは太古の昔からこの相互作用の重要性を直感的に知っていた。人類が疾病の病理に実際に影響を与えることができる治療法―抗生物質や化学療法、ステント、臓器移植、輸血など―をもつようになる前には、この「その他もろもろ」が医療の主力であり、多くの場合は非常に効果的でもあった。

 しかし、二〇世紀に入って・・・プラセボ心理的なでたらめ、・・・とみなされるようになった。・・・ブレークスルーが起こったのは一九七八年だ。プラセボ効果が本物であることが証明されただけでなく、エンドルフィンをブロックする化学物質であるナロキソン投与によって、効果を逆転できることも明らかになったのである。エンドルフィンとは、からだの中の自家製鎮痛剤として作用する興味深い神経化学物質である。・・・

 このような生物学的根拠にもかかわらず、医師や看護師はプラセボには不安を感じる。・・・しかし、患者の側は実はもっと柔軟な考え方をしていることがわかっている。プラセボが投与されているとはっきり伝えた場合であっても、患者の症状が改善することをカプチュクは示した。・・・

 ・・・私の患者の一人が言ったように「痛みをなくしてくれるならば、私はその薬がキュウリの漬物であってもかまわない!」ということなのだ。・・・