70代からのパリジェンヌ・スタイル

70代からのパリジェンヌ・スタイル フランス女性に学ぶ、幸せなシニア暮らし

 いろんな方の人生、興味深く読みました。

 こちらは、1948年生まれのブリジットさんのお話です。

 

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 パリの女性たちは、強く、自立しています。結婚して子どもを産んでも仕事をするのは当たり前。妻であり、母である前に、女性であるという意識が強く、経済的にも決して夫に寄りかかることはありません。高齢になり、夫が亡くなったとしても、子どもの世話になるよりは自由を選び、一人暮らしを続ける女性がとても多いのです。実際、一人暮らしの高齢女性は、65歳以上で約43%、80歳以上では6割を超えます。そして、その多くは自分の意志で一人暮らしを選んでいます。

 彼女たちは、孤独にひきこもることなく、贅沢はできないまでも社会とかかわりながら愉快に生活するための「生活の知恵」を持っています。また、加齢による変化に抗うことなく、時の流れを受け入れて、自分らしさを大切に美しく老いていく姿は、潔く、まぶしく感じられます。

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 私はパリのオペラ座近くのエステティックサロンの責任者として20年間勤めました。・・・

 この本では、私がフランスで出会った、素敵な高齢女性たち(カップルもふくめ)の暮らしぶりをご紹介しています。・・・

 みなさんそれぞれに自分のスタイルを持ち、おしゃれをし、毅然と生きておられる方たちです。・・・

 

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 ブリジットはフランス北西部ノルマンディ地方の小さな田舎町で育った。私立校に通い、勉学に励み、法律の学士号を取得した。

「男の子に生まれればよかったと思ったものよ。当時は女の子に自由がなかったから」

 田舎では、女の子の行動は見張られているようで窮屈に感じていた。周囲から悪い評判が立たないようにと常に気にしていなければならない。そんなところは日本と同じだ。

 22歳の時にパリに上京する。知り合いもなく、就職のツテもない彼女は、公務員試験をパスし社会人の一歩を踏み出す。

「私は成功を望み、野心を抱いて都会に出てきたわけではないの。公務員の給与は民間企業よりも少なくて、希望者が少なかったから受けてみただけ」

 言葉とはうらはらに、彼女は仕事で頭角を現した。利発で目端の利く彼女は財務省に配属され、大臣とその選挙区の間を取り持つことになる。

「興味の持てる業務を割り当てられてとても運がよかった。公務員になったのは正解だったと思う」

 職場では、たとえ相手が上司でも自分の意見をはっきりと発言することができる。・・・公務員は、上司の指示に従わないからといって解雇される心配は一切ないため、自分の意思を曲げる必要はない。・・・

「私ははっきりとノーを言える性格なの」

 でももしそれで人間関係にしこりが残り業務に支障が出てきたら、配置転換を希望できる。

 田舎で周囲の目を気にしながら育ってきたブリジットは、自分の意思を主張できる職場が気に入り、どんどん仕事にのめり込んでいくことになる。

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「職業人生では、いい思い出しか残っていない」とブリジット。

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 60歳になり定年を迎えたが、まだまだ辞める気にはなれなかったので、65歳まで働き続けた。

 そして最後には、税関業務を経験した。国家の承認のもとで、関連省庁と連携して戦闘機の輸出入に関わった。

 さらに、65歳になっても彼女の労働意欲は衰えず、更なる延長を希望した。しかし、当時公務員は65歳以降の労働は認められなかったので仕方なくリタイアした。

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 毎朝、ブリジットは5~6時に目覚める。

 そして、9時まで、少なくとも毎日3時間は読書にあてている。

 近所の図書館で、毎回小説を5冊借りる。それ以上だと持って帰るのが重すぎるからという理由だ。

 面白そうな本を選ぶけれど、5冊中最後まで読むのは3冊くらい。

 子どもの頃から読書が趣味。今は読書にかける時間がたっぷりあり満足している。

 10日おきに、13区の中華街で友人たちと昼食をとる。

 自宅から1時間半かけて歩いて行き、食後も徒歩で帰宅する。

 リタイア後は、地下鉄に乗らないと決め、できるだけ歩いて出かけるようにしているそうだ。

 思えば、現役の頃は朝夕地下鉄で通勤し、毎日モグラのような生活だった。週末はノルマンディで過ごしていたので、顔を上げてパリの街中を見たことがなかった。

 古い街並み、公園や広場。風変わりなファッションを楽しむ若者たち。道端で歌ったり踊ったりしているアーティスト……。今になってパリの素晴らしさを発見しているという。

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「人生に悔いはないわ。2回も中絶しているのだから、その後悔を引きずることもありえたかもしれないけど……。私は、配偶者がいなくても、一人暮らしでも、うまくやっていける性格なところが幸運だったと思う」

 と言い切るブリジット。

「人生はいろんな見方があると思う。私は、人生の目的は、できるだけ不幸な思いをしないように生きることだと思うの」

「できるだけ幸せになることではなくて?」

「あまりたくさんのことを期待しすぎてはいけないのよ。要求が高すぎると簡単には満たされないから悲観的になる。私はあまり要求がないから今の人生に満足できるのね。ぐっすり眠れて気分がいいとか、お天気がいいとかそんな小さなことに喜びを感じるのよ。

 冬の晴れた日には、この居間のテラスから日が昇るのが見えるの。それだけで私は十分に幸せよ」

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「考え方を変えてごらんなさい。あなたの周りに、もうすでに楽しいことや素敵なことはたくさんあるのだから。朝起きて、ベッドサイドでつまずいて膝をぶつけてしまったり、コーヒーカップを床に落として割ってしまったり、悪いことが重なる日もあるけど、そういう日は、今日はもう何もしないと決めて、次の日になるのを待つのよ。翌日はまた新たな始まりだから」