パリママの24時間

パリママの24時間 仕事・家族・自分

 とても興味深く読みました。

 どんな内容か、はじめに、と、あとがきを引用します。

 

P1

 外国の人の話を聞くのが面白いのは、「普通のこと」「常識」が微妙に違っていて、そちら側から見ると、自分の辛い状況や困ったできごとが、ふっと違うふうに見えてくるからではないかと思う。

 私はここに、15人の働くパリのママに、生活を語ってもらった。・・・

 

P183

 どのママも仕事を持っているのは、当初、連載したウェブマガジンの企画が「ワーキングマザー」だったからというのが直接の理由だが、ただの「パリママ」でも、あまり変わらなかったに違いない。というのは、フランスのママたちは、仕事を持っているのが普通で、働いていないママはめずらしいのだ。

 働くのが普通、というのは、ほんとうに普通だというだけのことで、誰もがかっこよく自慢になるようなキャリアを持っているということではない。ただ、伝統的に財布の紐を夫に握られていたフランスでは、経済的な自立にかける女たちの気持ちは強く、また社会に貢献して能力を認められたいという気持ちも、一般の常識になっている。

 とはいえ、また誰もが、家事に協力的な夫を持っているわけでもない。だいたいフランスの男性はけっこう保守的で、ヨーロッパの中では、家事の協力はなかなか進まないほうだと言われている。インタビューでも、夫は見本市みたいにいろいろなタイプが出てきた。家事、育児はほとんど手伝わず、仕事に専念するばかりか、休日も自分の趣味で勝手に出かけてしまうセシルやパトリシアの夫のようなのもある。その対極に、何でも半分負担するエマニュエルの夫や、忙しい妻をサポートして子どもの世話を引き受けるヴィルジニーの夫。夫婦の関係というのは、どこの家でもそれぞれで、「夫の4倍働いて、4倍稼いでいる。文句は言わせない」という妻には温厚な夫があり、「家事、子育ては女の仕事と思っている」夫を持つ女性は「でも、頼めば何でもやってくれる優しい男性」と満足している。一対一の関係で、お互いになるべく不満のない、自分たちなりの信頼関係を築けばよいのだから、どこのカップルも、それなりによくやっているものだと思った。

 そんなわけで、夫が頼りにならない場合は、家事・育児は家政婦さんやベビーシッターに頼るタイプが現れる。高給取りであればアウトソーシング、そこそこだったら頼れる夫、どちらもない場合は仕事時間を調節して自分でやる。フランスの女たちもそれなりに苦労しているのだ。

 フランスっぽいなと思ったのは、「子どもと家にばかりいる生活は私には耐えられない。外とのコンタクトが必要なの」というコメントが、ライトモチーフのように現れることだ。・・・「赤ん坊って、あまり面白くない」とか、「産休中は落ち込んでしまった」という、思っていても日本人ならあまり言わないのではないかと思うセリフが、ポンポン出てくるのもフランスらしいと思った。・・・こういうことは「言ってもいい」ことだと、世間で共有されてる感覚なのだろう。

 ・・・

 乳飲み子を抱えて離婚したカリーヌが、仕事に追われ、子どもと過ごす時間が少なすぎることに罪悪感を抱いたときに、保育士さんが「子どものほうで合わせてくれますよ」と励ましたというのは、いい話だと思った。

 ところで、シングルマザーのソラヤでこの本は始まるのだが、・・・シングルマザーはフランス、とりわけパリでは「マイノリティ」ではないのである。パリママのシンボルがシングルマザーとまで言う気はないが、たとえば子どものクラス全体で3人に1人は親が離婚している。ひょっとすると半数の母親がシングルマザーというところも。こうなると一大勢力である。・・・超エリートではないが、「母子家庭」で貧窮するようなこともなく、淡々と、肩を張らず、勇気を持って、別れた夫とも連携しながら子どもを育てているソラヤのようなスタイルは、パリではよく見かけ、とても普通なので、私はこれを「パリママ」の冒頭に置き、日本のシングルマザーたちを励ましたいと思った。

 ・・・

 その後、彼女たちの身辺にもいろいろ異変が起きた。ソラヤは恋人を見つけたし、セシルは4番目の子どもを保育園に入れられなかった。おまけに信頼していたベビーシッターのプリアにも突然、辞められてしまって、産後の体で後任のベビーシッター選びにてんやわんやだった。薬剤師のエレーヌ・エルカイムも、分身のように大切にしていたベビーシッターのビビが病気で倒れてしまった。彼女の回復を待って自分の仕事を控えていたが、結局、ビビが復帰できず、新しいベビーシッターを探すことになった。モントルイユ市の事務次長だったエレーヌ・クレダ=ヴァーニュは、四半世紀も君臨していた市長、ジャン=ピエール・ブラール氏が選挙でまさかの敗北を喫したため。一晩で職を失ってしまった。現在、就職活動中。

 だから、ここに切り取ったパリママの生活シーンは、そのままの形では、もう、ない。たった1年か半年でも、人々の姿は少しずつ変わってしまう。でも、街角の名もない人の一瞬をシャッターに収めた写真のように、ここに収めた15人の女たちの話から、無数のパリの女たちの生活ぶりを感じてもらうことができたら、私は何か、真実に近いものを、伝えることができたと満足できるだろう。